抱擁




「お前のこと、好き……かも」
なんて意外な相手に言われたから。
何となく、悪戯心を起こしてちょいちょいと手招いてみた。
近づいてきたテッドによく見えるように、襟を寛げる。
そこにあるのは世間で言われる所のキスマーク。
「お!彼女できたのか?若いなぁ…」
勘違いしているテッドにもう一つ。今度は滅多にしないリストバンドをずらして見せる。
右手首にはっきりと残る大きな手形。
利き腕封じるつもりだったんだろうな。普段なよっとしてる癖に、こういう時ばっかり無駄な力使って。これだから軍に入っていない貴族って鬱陶しい。
勿論しっかり撃退はした。体格差があったからちょっと苦労したけど。
「お前もこういう事したいクチ?」
しっかり見せ付けてから、訊きたかった事を訊いてみる。流石にテッドも相手が誰だか判ったらしい。気遣うような態度の後、きっぱりと言った。
「強姦は最悪」
「強姦じゃなかったら?」
「……したいかもな」
「じゃ俺がいいって言ったらやるんだ?」
「やけっぱちで言ってるんじゃないならな」
「じゃ、いい」
勿論やけっぱちじゃないからな、と付け足すのを忘れずに。
「……ちょっと待て、今なんつった」
「いいって言った」
テッドが冗談で言ってるんならやる気はなかった。
でもテッドの目は答えるときも揺らがなかった。嘘じゃない。
だからいい。
するりと腰帯を引き抜き、上着を落とす。テッドが慌てる。
やりたいっていった癖に、今更「危ない道に転がすのも」だとか「男同士のネコは痛いんだぞ」とか「気の迷いだ」みたいな言い方ってのも往生際が悪くないか?
だから俺の方からキスしてやった。
これで反応ないならそれでいい。本気じゃないって事だろうし。
と思っていたら、キスが返されいつのにかベッドに倒されていた。
「踏ん切りついたか?」
「はいはい、ありがとさん」
……なんでそこで照れるんだよ。
っていうか、テッドの照れた顔って初めて見た。
「こんなに嬉しいのも久々かも」
嬉しい?
「………」
違う違うっ!何を考えてるんだ俺は。例えテッドが俺の事本当に好きだろうと、俺はテッドの事なんて好きじゃないんだから。
嬉しいなんて言われて、何で俺まで嬉しくなってるんだよ。
寝てもいいって思ったのも、ほんの気まぐれ。俺は昔から男にそういう目で見られがちだったし、先日あんなこともあったし、軍に入ったら多分もう避けては通れないだろう。
無理矢理やられる位なら、俺がいいと思ったときに、いいと思った相手にやる方がマシ。
テッドならまあいいか、と思った。
好きでもないけど、嫌いでもないから。
なのに首筋に残るキスマークを、テッドのものに塗り替えられた時。
「下らん独占欲っぽいけど、ほら、俺の痕」
独占欲?
テッドの所有印?
……俺がテッドのものって証?

羞恥は突然来た。

馬鹿っ!何言ってるんだよっ。
俺は俺の物で、俺以外の誰のものでもなくてっ。

甘く噛まれた胸からも、撫でられた腰からも、触れられた自身からも、しびれるような甘い感覚が上って来て、俺はただ声を抑えることしか出来なかった。
男の身でありながら受身に回るという事は、相当の痛みを伴うって覚悟はできていた。むしろ望むところだった。
痛みほど、強くて信じられる感覚はない。
俺は痛みが欲しかった。痛みの中で狂ってしまいたかった。
なのになんで、俺は今こんなに恥ずかしい思いをしているんだろう。
咥えられた自身が歓喜に震える。目元に、頬に、唇にキスが落とされる度に、恥ずかしくていたたまれなくなる。本当にこれはテッドなのか?本当に、俺はテッドとこんなことをしてるのか?
挿入の為の準備も辛かった。長く続く甘い責め苦。痛みよりもよっぽど辛い。
でもそう思ったのも入れられるまで。テッドのアレが入ってきた時の痛みは尋常じゃなかった。本当に死ぬかと思った。
息をすることすら忘れてしまった俺。でもテッドだって相当痛かったに違いない。
ぼんやりした頭で、どんな顔して俺を抱いているんだろと思って見上げたら、意外にもテッドは微笑んでいた。今までみたことないくらい、優しげに。
……何で赤くなるんだ。何で嬉しいとか思ってるんだ。俺はテッドの事なんか何とも思ってないはずだろ!
「すっげー幸せ」
耳元で囁かれた声に、何で躰が反応してるんだよ!
何で弱いとこ触れられるのより、感じているんだよ。
何で名前呼ばれただけで、こんなに切なくなるんだよ…。


痛みのせいで後ろでイクのなんて夢のまた夢の俺と違って、テッドは俺の中で果てた。
心と体を苛む甘くて痛い責め苦からやっと開放されたと思いきや、テッドはご丁寧にも俺までイカせてくれて。
そこで俺はもう一度、今度は自分のモノを飲まれるという羞恥を味わった。
腰が抜けた俺を風呂まで運ぶ腕は、昨日までと何も変わらないのに。
俺だけが変わってしまった。こうしているだけで心臓の鼓動が早い。顔が熱い。
誘ったのは俺の方なのに。
オトされた気がするのは何でだろう。


俺を抱え上げる体にしがみ付きながら
俺はぼんやりと自分の気持ちを自覚する。
抱きしめられて初めて気づくなんて
馬鹿なのは俺の方かもしれない。










あまあまてぼです。……うぎゃー(羞恥にのた打ち回り)
なんかもう色々ごめんなさい…でも形に出来て嬉しかったです(苦笑)


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