記憶の中の鮮やかな君に



今日はスノウの10回目の誕生日。
彼の元には、毎年山のような豪華な贈り物が届く。
綺麗に包装された色とりどりの箱。
僕の手の中の、みすぼらしいこれとは大違い。
品物を包んでいるのはメイド仲間に貰った端布と短くて使えない余ったリボンだし、中身もお金をかけずに用意したものだ。
貰っても迷惑かもしれないけど。
僕もスノウに何かをプレゼントしたかった。


だけど実際に広間に詰まれたプレゼントの山を見たら、これを紛れ込ませる勇気はなくなった。
このまま服の下に隠して、こっそり持ち帰ろう。
そう思った時、
「あ、オーク、こんなとこにいたんだ。見てみて、凄いプレゼントでしょう!これ全部僕になんだよ!」
はしゃいだ声をあげてスノウが広間に入ってきた。
驚いて取り落としそうになった包みを慌てて服の上から押さえて、スノウを振り返った。
「うん…凄いね」
「今夜のパーティで開けるのが楽しみだよ。パパは約束の剣をくれるかなぁ。僕だけの剣が欲しいって前からお願いしてたんだ」
「……スノウは剣が欲しいの?」
ずっと素肌に押し当てていた箱が、不意に冷たく感じられた。
「うん。それで悪い奴をやっつけるんだ!名前ももう決めてあるんだよ。僕の名前をとって、スノウブレードっていうんだ。パパ結構おっちょこちょいだから、忘れてないといいんだけど」
「大丈夫だよ。きっと旦那様は立派な剣を下さるよ。スノウのお願いだもの」
「そうだよね。ああ、パーティが楽しみだなあ!早く夜にならないかしら。……あれ、お腹のとこに何持ってるの?」
「あ、これはっ……」
うっとりと夢見る様子だったスノウが、お腹を押さえる僕の不自然な格好に気づいて手を伸ばして来た。思わず身を退いた瞬間。

ぽと

僕の足元に、小さな包みが落ちた。
「なあに、これ」
誤魔化す間もなく、スノウの柔らかな白い手が包みを拾い上げた。
まじまじと見つめるスノウに、逃げ出したい気持ちになる。
こんなものをスノウに渡そうと思っていたなんて!
部屋でリボンを結んだ時は中々と思ったラッピングが、スノウの手の中ではひどく安っぽく見えた。
「これ、もしかして僕へのプレゼント?」
「……」
頷くしかなかった。ここで違うと言ったら、きっとスノウを傷つける。
それにこんな形でも、スノウに渡せて嬉しい。
「開けていい?」
もう一度頷くと、スノウはリボンを解いて包みを広げた。
「わあ、貝…石かな?オークがみつけたの?」
感嘆の声を上げるスノウの手のひらの上には、渦を巻いた、カタツムリの殻のような物が乗っている。
「うん、アンモナイトっていう化石なんだって。こんな風に鉄みたいになってるのは初めて見たって道具屋のおじさんが言ってたから…」
ドキドキと早くなった心臓の音が煩い。言い訳するように一息に話す。
どうしよう、やっぱり止めればよかった。珍しいからってこんな物持ってくるよりは、道具屋のおじさんに引き取って貰って、そのお金で別のものを買えばよかった。
たくさんの素敵なプレゼントを貰い慣れているスノウだもの。化石なんて役に立たないもの、要らないに決まってるのに。
スノウが今どんな表情をしているか見るのが怖くて、顔を上げられなかった。
後悔に押しつぶされそうになっている僕の耳に、スノウの明るい声が届くまでは。
「ありがとう!そんな珍しいものを嬉しいよ。宝物にするからね!僕、早速部屋に飾って来る!」
そう言ってスノウは、一目散に部屋へと駆けていった。
一人取り残された僕の心に、徐々にスノウの言葉が染みて来る。
スノウが僕のプレゼントを嬉しいって。
机に仕舞い込むんじゃなくて、飾ってくれるって。
他のは夜まで開けるのを待ったのに、僕のはすぐに開けてくれて。
……どうしよう、凄く嬉しい。



化石はずっと、スノウの机の一番目立つ所に小さなガラスケースに収められ置かれていた。
後に、その化石はパワーストーンに変化した珍しいものであり、アンモナイトパイライトと言う金運や厄除けのお守りである事が判明した。
コレクターに売れば、結構な金額になるものだとも。
あの化石はどうなっただろう。
誰も居なくなったフィンガーフートの屋敷で、今も光を反射させているのだろうか。
左手に宿った罰の紋章を見る度に、あの化石を思い出す。
宝物にすると言った、幼い笑顔を思い出す。






ようやく主スノも書き始め。