慌てて身支度を整え外に出ると、テッドは浜辺で海を眺めるようにして立っていた。
風呂上りで暑いのか上着は着ていない。黒のタートルネックのテッドの姿は、青と白の極彩色の世界にくっきりと浮かび上がっている。 「テッド君っ」 振り返ったテッドの髪が、光に透けてきらきらと輝いた。 「ちゃんと温まってきたか?」 「うん」 時刻はちょうど昼近くで、光源はほぼ真上から注いでいた。日差しはテッドの顔に深い影を作り、瞳の表情を隠してしまう。 「………………ちょっとそこに座れ」 「え?うん」 言われるまま乾いた砂浜に腰を下ろす。 ざっざっと砂が擦れる音と共に、テッドがアルドの後ろに回り。 「…………テッド君?」 アルドの半渇きの髪が、ばさりと背中に広がった。驚いて振り返れば、テッドの手の中にあるのは先ほどまで自分の髪を束ねていたゴム。 「結わいたままだと、乾かないだろ」 邪魔だから結わけと言ったのは、他でもないテッド自身ではなかったか。 「クシ」 櫛だと気づくのに数秒、差し出された手がそれを寄越せと言うのに気づくのにまた数秒。 「あ、はい」 ごそごそとお風呂セットを漁って取り出した櫛を渡すと、テッドはアルドの髪を手に取り、丁寧に梳き始めた。 「ええっ、えっと、テッド君……?」 「……確かに綺麗な髪だな」 歯の粗い櫛がアルドの髪を滑っていく。 「…あ…ありがとう……」 他人に髪を梳いてもらったのなんて小さな子供の頃以来で、少し面映い。しかもテッドがしてくれるだなんて。 「あ、あのっ。僕髪を切ろうかな」 「何で?」 「やっぱり邪魔でしょう。洗うのも乾かすのも結構大変だし…」 「…………」 テッドの手が止まったのに気づき、僅かに振り返る。 「テッド君?」 「折角ここまで伸ばしたんだし、勿体ないだろ」 再び櫛が動き出す。梳られる度に送り込まれる空気が、髪から水分を奪っていく。 「そ、そう?」 邪魔だと言われたり、勿体ないと言われたり、ころころ意見が変わるテッドの真意はアルドには全く掴めなかったのだけれど。 「じゃこのままにしておくね」 優しく髪に触れるテッドの手が嬉しくて、こんな風にして貰えるなら絶対髪は切れないなあと思うのだった。
以上同人誌より再録。 |