捩れた直線
いつも見上げている顔を見下ろしているという優越感を、隠そうともせずに笑う。 しかもこんな風に――テーブルに押さえつけて、動けないようにして、自由を奪って。 ほら、お前は捕らえられた獲物だ。 喰われるのを待っている、哀れなウサギ。 「何するんだっ、離せっ!!」 暴れたって無駄だ。両腕はしっかり押さえ込んでやったし、こういうのはコツがある。力任せに振りほどくには、よっぽど力の差がないとな。 オレよりでかくなったとはいえ、こいつはまだ子供だった。これから自分が何されるかも、よく判ってないんだろう。困惑気に見上げてくる顔がおかしかった。 「大人しくしろ……痛い思いはしたくないだろ」 耳元に、精一杯の低い声で囁いてやる。苦痛を与えるつもりはない。だけど肉体の苦痛以上に痛い、精神的苦痛はしっかり味わってもらうぜ。 それが、必要以上にオレに近づいたお前の罰だ。 「誰が大人しくするかっ!さっさと退け!重いっ」 あーあ、やっぱりお前はちっとも判ってない。これでオレが、はいそうですかとあっさり退くと思ってるのか? 押さえつけていた腕を頭上で一つにまとめ、片手で掴む。細い手首は子供のオレの手でも何とか収まった。 「恨むんなら自分の馬鹿さ加減を恨めよ」 言いながら、空いた片手を下に下ろす。 「……!?テッド!!」 大きな目が、信じられないといった様子で見上げてくる。 ああ、やっと顔色が変わったな。ようやく危機感を感じたか? でももう遅い。お前はしっかり思い知らせないと、また同じことを繰り返すだろ。 「何だよ、自分でもやってるだろ。それとも…まだ経験なしか?」 喉の奥で低く嗤う。多分オレは今、ひどい表情をしている。 「っ…………!…離せ……っ……」 オレを見ようとせず、震える唇をかみ締める。怒りにか、屈辱にか…そのどちらもか。 「自業自得だ。諦めろ」 ゆっくりと確実に、手の中のものを追い上げる。布越しに、それから直に。手の動きに反応して、強く目を瞑ったり、声を押し殺したりする顔を眺めながら。 「僕が…何をしたって言うんだ…っ…」 「しただろ。たくさん」 「だから、何をっ………」 本当に判らないのか? 固い殻で守っていたオレの心に、ズケズケと踏み込んできたくせに。 もうこれ以上――オレを侵食させる訳にはいかないんだ。 「判らないならそれでいい。…判らないのも悪い」 手の動きを早め、敏感な部分を擦る。思ったよりも反応は返ってこなかった。 こいつは多分、まだ殆ど自分でやった事がないんだろう。与えられる感覚に付いていけず、混乱している様子だった。 征服感という歪んだ悦びが、あの鋭い目が自分を見ていないという安心感が、オレに余裕を与えた。 セオリーどおりに唇を重ねようとして、触れ合う寸前ではたと気付く。オレはこいつを抱いてるんじゃない。 傷つけるために。全てを終わらせるために、だ。 行き場を失った唇を、反らされた白い喉元に押し付ける。くぐもった声がもれる度に、喉が震えるのが面白かった。 「そんなの……勝手だ!ちゃんとわかる様に言え……っ……」 まだこんな減らず口が叩けるなんて、ちょっと感心する。 「言ったってお前は判らないだろ」 「そんなこと…………っ…………」 言葉の合間に、時折びくびくっと体が跳ねる。少しずつではあるが、変化が現れた。先ほどまでとは違い、唇から洩れる声も熱を含み始めている。 これからが本番だ。オレに近づいたことを、たっぷり後悔させてやる。 そうすりゃ二度とオレに近づこうなんて思わないだろ。 「……あっ………」 根元を強く押さえつけ、せき止める。熱っぽい目が不安気に宙を彷徨う。 手が塞がってしまったので、今度は舌を動かす。鎖骨を伝わり、もっと下へと。手首を掴んだ腕が伸びる限り。 「う……やめろっ!テッド!!」 「お前の言う事なんか聞くか。お前だって、オレの言う事ちっとも聞かないだろうが」 何とか逃れようともがいてるが、無駄な足掻きだ。オレはやめてやるつもりなんてないんだから。 一度壊れた関係は………とことん壊してしまった方がお互いの為だ。 |
一体何が起きてるんだ? 押し付けられた腰が、テーブルの隅に当たって痛い。力任せにつかまれた手首も、ギリギリと悲鳴を上げている。 だが何よりも不快なのは――下肢に触れる手だった。 固くごわついた手袋が、他人に触れられたことのない場所に触れている。 気持ち悪い。 ぞわぞわと背筋を走る悪寒。気持ち悪くて吐きそうだ。 テッドは何を考えているのだろう。 こんな行為に何の意味があるというのか。 勿論これが何を意味するのか判らないほど子供ではない。二次成長の一環である精通も、ちゃんと迎えている。 だが元々そちらの方は淡白であるのと、自分の手で快感を得る事に嫌悪を感じて、未だ数えるほどしかしたことがなかった。 それを他人の手で、しかも友と思っている人物に無理矢理押さえつけられ、一方的にされているこの現状。 悪夢としか思えなかった。 「離せっ…………嫌だっ!!」 払いのけようにも、体はがっちりと押さえ込まれていて動かせない。 「オレもさっき言ったよな。離せって。でもお前は離さなかった」 見慣れた目が、冷たく光るのを目の当たりにする。 ―――怖い、と。 初めて彼を怖いと思ってしまった。 男の生理は繊細だ。その気にならなければ、いくら刺激を与えても変化することはない。 実際与えられた刺激の割には変化が少なかった。そこに恐怖心が加われば、起つどころか竦むだけだ。 ところが。 「っ…………あ………」 テッドの顔が近づいて来たかと思うと、彼の顔ギリギリで止まり、くるりと方向を変えた。 喉元に柔らかいものが触れる。そこから生まれる痺れるような波。 先ほどとは別の恐怖心が全身を駆け巡った。 「………退け!……テッド!!」 明らかに変化を始めた自分を、テッドが嘲りを含んだ目で見下ろしてくる。唇は動きを止めず、滑らかな舌も加わって、より追い詰められる。 「オレに命令するな」 命令なんてしていない。 反論しようとした言葉は、声を抑えるために噛んだ唇に邪魔された。 濡れた柔らかいものが肌を滑るたびに、じんっとした切ない波が走る。 それは初めて感じる――――快感。 必死に身を捩り、なんとか愛撫から逃げようともがく。 怖い。 テッドがテッドじゃないみたいで。 自分が自分じゃないみたいで。 知らない。こんな自分は知らない。 唇が触れただけで、こんな風になってしまう自分なんて。 知らない……っ。 「……あっ………」 柔らかく触れていた手が、根元に絡まる。 それは新たな恐怖の予感。 「う……やめろっ!テッド!!」 「お前の言う事なんか聞くか。お前だって、オレの言う事ちっとも聞かないだろうが」 聞いた事もない低い声が耳に届く。 言葉は、届かない。
てぼ祭り万歳。
いやあ、萌えた萌えた。 ネタ提供ありがとう(笑) |