食卓



今食べてるこれは、生まれてから一体何回目になる食事なんだろう。
1年365日×3食として1095回。寝坊したりして一日2食の時もあるから、1年で大体1000回としよう。
最も毎日3食きっちり食べれてるのなんてここ最近で、旅の途中や貧しい村で仕事が無かった時、路銀が尽きた時なんかは1日1食すら食べれないのはザラだったから、280年間は2食で計算した方がいいかな。
そうすっと、えー、いくつになるんだ?ちゃんと勉強習った訳じゃないから、俺計算は苦手で。ただ覚えるだけの歴史とかは得意なんだけどな。
がりがり紙に書き連ねてみて、出てきた数字は224400。
うわー、22万かよ。とんでもない数だ。それだけの回数、俺は飯を食って生きてきたわけで。
食事の一番の目的が生命維持だから、味の方は二の次だ。食べれれば何でも口に入れてきたし、自分で作るのは煮たり焼いたりすればいいだけの、手間のかからない料理ばかりだ。金を貯めてたまに外で食事をするのが、唯一の楽しみだったっけ。
その22万回にも及ぶ食事の中で、これが今までで一番美味い!と思っても、グレミオさんの料理は毎回それを更新してしまう。
凄いよな。何であんなに美味しく作れるんだろ。
昔、結構有名な料理店で掃除夫として働いてたことがあって、たまに客の残り物とかつまみ食いしてたんだけど、目玉が飛び出るくらいお高かったあの店の分厚いステーキより、グレミオさんが作る普通の飯の方がよっぽど美味い。
お高い料理は単に俺の口に合わなかっただけなんじゃないかって?はは、確かにそれもあるかもな。
メニューだってお貴族サマの特別料理って訳じゃなくて、俺でも馴染みがあるようなごく普通の家庭料理だ。食卓に上がる回数が一番多いのはシチューだし。(シオンの好物らしい)
要はグレミオさんの腕がいいってことなんだよな。材料費をかけずに美味しいものを作るなんて、料理人の鑑だね。グレミオさん天才!
そんな訳で屋敷に一緒に住むのは遠慮してるけど、特に用事が無い限り、夕食はいつも屋敷でご馳走になることにしている。家に帰って俺の適当な飯を食うより、屋敷でパーンさんと競いながら、グレミオさんの美味ーい飯を食う方が断然いい。
昨日の魚のフライも美味かったなぁ。上にかかってるタルタルソースがまた絶品で。
昨日の夕食を思い出して、うっとりと悦に浸る。今、目の前にある、俺が作った夕食とは比べ物にならない美味さだ。
今日は夕方から用事があったので、残念ながら屋敷での夕食には間に合わなかった。昼の残り物を温めて、適当に食べる。
以前はこれでも美味いと思ったんだけどな。グレミオさんの味に慣れてしまうと辛い。
と。
「テッドいるー?」
軽いノックの後に聞きなれた声がして。
「シオンっ?」
慌てて玄関に駆け寄る。 何でシオンがこんな時間に!?
ドアを開けると、両手に大きな包みを抱えたシオンが立っていた。
「どうしたんだよ、こんな時間に…」
あと一時間もすれば、普段ならシオンは布団に入る時間だ。
「今日の夕飯のシチューを持ってきたんだ。もうご飯食べちゃった?そしたら明日の朝にでも食べてよ」
はい、と渡された包みはずしりと重く、ほんのり温かい。
「わざわざ持ってきてくれたのか?」
「家帰ってからご飯作るの大変でしょ。遅くなってもいいから、うちに来ればよかったのに」
そうも行くかよと言いたかったが、お屋敷の嫡男にこんな時間に夕食配達させる位なら、その方がマシかと思う。
「……今度からそうするよ」
「ん。じゃあ僕帰るね。おやすみなさい」
くるりと翻した背に、慌てて叫ぶ。
「待てよ、こんな時間に帰るのは危ないから、今日は泊まってけ」
「いいの?」
「というより、最初からそのつもりだったんだろ。何だよそのカバン」
「えへへ」
先ほどは影に隠れて見えなかったが、シオンの肩には大きなカバンがかかっている。
「ちょうどこれから飯にする所だったんだ。一人じゃつまらないから、お前も付き合えよ。夕食から大分時間が経ってるし、少しなら食えるだろ。夕飯が届くなんて思ってなかったから、俺も簡単なもの作っちまって一人じゃ食べきれないし」
「テッドが作ったの?食べるっ!」
シオンの顔がパッと輝いた。おいおい、そんなに期待されても、グレミオさんのと違って俺の料理は美味くないって。
カバンを前に抱えなおし、そそくさと家の中に中に入ってきたシオンの後ろでパタンとドアを閉めた。荷物を置いたシオンが、早速台所から自分の置き箸とシチュー用に深皿を持ってきて、テーブルの上ですっかり冷めてしまった煮物を口に放り込む。
「美味しいよ、テッド!」
「そうか。良かった」
貰ったシチューをテーブルの真ん中に置いて、俺も食事を再開する。……あれ?
なんかさっきより美味くないか?これ。
出来たてより冷めた方が美味しいなんてそんな馬鹿な、と思いかけて。
ああそうか。
口元が緩む。さっきと今とで違うもの。それは。
「?どうしたの、テッド」
「何でもない」
俺がにやにやしてるので、シオンが不思議そうに首を傾げる。
「さ、食おうぜっ。シチューも冷めないうちに食べないとな」
「うんっ」


誰かと一緒に食べる食事は、それだけで美味しい。
それが大好きな相手なら尚更。









一人称で書くのってやっぱり苦手です…。
でもテ坊は一人称で書くって決めたんだっ。練習練習。
そろそろ残りが厳しいお題ばかりになってきました。一番の難関はやっぱり「野遊び」。
この2人で野遊びって何するの?(爆)(シオンは都会っ子、テッドは面倒くさがりなので)
「遊び」だったらいくらでも思いつくのになぁ。

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