先に言っとくが、俺にはそんな気は全く無かった。
何気ない、くだらない普通の会話をしていたつもりだ。なのにシオンが喋らなくなったなーと思ったら、キッと睨みつけられて。
「ひどいよ、テッド!!」
へ?
一体何がどうしたって言うんだ???



喧嘩




「……あのさ、お前が何で怒ってるのか、本気でわからないんだけど」
「自分の言ったセリフを思い返してみなよ」
さっきからシオンは膨れっ面でそっぽを向いていて、俺と目を合わせようとしない。
やれやれと小さな溜息を一つ吐き、
「思い返してわかんねぇって言ってるんだよ」
「僕はテッドの言葉ですごく傷ついた。テッドがそんな風に思ってたんだとショックだった」
「だから理由を教えてくれよ」
シオンが何に怒ってるのか判らなきゃ、謝ることもできやしない。
「……○○だよ」
膨れた頬からぽそりと洩れた言葉は、俺がシオンが怒った理由として色々考えていたものとは全然違ってて。
「はあ?それのどこがっ!」
思わず叫んでしまった。とたんにシオンの鋭い視線に射抜かれる。
「どこがじゃないよっ。それって○○ってことじゃないか!馬鹿にされたみたいで凄く悔しかった!つまりテッドは僕をそういう風に見てたって事だろっ」
「ちょっと待てよ。それは○○ってつもりだったんだよ。○○って○○なもんだし。俺はお前の気持ち、すごく嬉しかったんだぜ」
「……じゃあ○○ってのは?」
「○○って事じゃないか」
俺にとっては本当に寝耳に水なことばかりで、シオンの言葉一つ一つにびっくりする。
何でそんな風に思ったんだろう。だって○○だぜ?普通の言葉だし、俺はいい意味で使ってたんだけど、シオンにとっては悪い意味になるのか?
とにかくシオンが怒っている理由が判ったので、ここは一先ず謝っておこう。
「誤解させちまったんなら謝るよ。でも言っとくが本当に俺はそれを褒め言葉のつもりで使ってたんだぜ?○○だろ。どうして悪いように取るんだよ」
「人聞きのいい言葉でもないと思うけど」
「良くないか?○○の本来の意味は○○だから、間違ってはいないと…」
「時と場合によるだろっ。使う時を考えなよっ」
何度力説されても、俺にはさっぱり判らない。俺はこの言葉を長年いい意味で使って来たし、それを言われて怒る奴もいなかったと思うんだが…俺が勝手にそう思っていただけで、実は傷つけてたんだろうか。
どっちにしろ、シオンに「俺はそういうひどい事を平気で言う人間」だと思われしまった事が悲しかった。シオンと俺の仲だったら、何かあっても「テッドがそんな風に思うわけない。悪気はないんだろうな」って考えてくれると思ってたんだけどな……甘かったか。
何だかちょっと切なくなって、
「そんな風に言われたのなんて初めてだぜ」
とぼそりと呟くと。
「じゃあそういう受け取り方をする僕が悪いって言う訳?」
あああ、益々シオンを怒らせてしまったようだ。そんなつもりじゃないのに。悪い方へ悪い方へとどんどん転がっていく。
「そんな事言ってないだろ。あーもういいよ、俺が悪かった!ごめんって。だから許してくれよっ」
「本気で思ってないでしょ。僕の頭に血が上ってるから、とりあえず謝っとけって思ってるんでしょ。テッドのもういいって言葉、嫌いだ。駄々っ子を宥める為に、自分が全部悪いってことにして一方的に終わらせる。ずるいよ」
意外な切り返しに、言葉を失う。
確かに俺は納得してなかった。でももうこれ以上シオンを怒らせたくなくて話を打ち切ろうとしたことが、逆にシオンを怒らせてしまった。
あーくそっ、じゃあ一体どうしたらいいんだ?
「なぁ、お前は俺にどうして欲しいんだ?」
本気で判らない。お手上げだ。
するとシオンの顔が泣きそうに歪んだ。
「本当に判らないの?」
怒っている時より、今の方が責められている気がする。
情けない気持ちで一杯になりながら、コクリと小さく頷いた。
「……僕はね、僕が悲しんでいる事を知って欲しかったんだよ」
「それは判るよ。お前泣いてるし……」
「違うよ!それは客観的な事実であって、実際どれだけ僕がテッドの発言に傷ついたか考えてないでしょっ」
そんなつもりは無かったが…そうなのかもしれない。端から見れば俺の行為は、泣き止まない子供を叱って無理矢理泣き止ませるのと同じか。子供だって納得しなけりゃ不満が残るよな。
俺は姿勢を正して、改めてシオンに向き直った。
「もういいって言ったのは、誤魔化そうとしたんじゃなくて、俺が自分の非を認めたからだよ。例え俺にその気がなくても、お前を傷つけた。それを謝ったんだよ」
「……ごめん」
頑なだったシオンの表情が緩む。やっと少し気持ちを解すことが出来たらしい。
「悪かったな。今度から気をつける」
俺は手を伸ばして、シオンの柔らかい黒髪をそっと撫でた。
「しっかしなぁ、○○だろ?お前には悪いがどうしても理解できない。考え方の差なのか、育ち方か、身分の差か、はたまた地域性か…」
俺の生まれた村はよく言えば大らか、悪く言えば大雑把で、大抵の事は笑って済まされ大きな喧嘩になるという事は殆どなかった。7つまでしか村に居なかった俺だけど、その精神はしっかり刷り込まれている。
「僕はテッドが判らないことの方が不思議だよ」
シオンの頬はまだ少し膨れてるけど、怒ってるっていうよりは拗ねてる感じだ。
苦笑して、もう一度頭を撫でる。
「とにかくごめんな。ただ俺が悪気があって言った訳じゃないことだけは信じてくれよな。それを疑われると切ないからさ」
「判ったよ。僕もキツいこと言ってごめんね」
完全に吹っ切れた訳じゃないだろうが、一応の仲直りをして、シオンは屋敷に帰って行った。
一人になった後、冷めてしまったテーブルの上のお茶を飲み干し、ふぅっと肩の力を抜く。
シオンと一緒にいたにしては、何だかえらく疲れた。いつになく緊張してたってことか。
そりゃそうだ。絶交だって言われてもおかしくない状況だったんだもんな。
仲直りできて本当に良かった。
そういや俺が弁明するなんて珍しいな。
今までだったらすぐに面倒くさくなって、とにかく機嫌とって、耐え切れなくなったらその日のうちにさっさとトンズラした。あんなふうに必死に謝ったのなんて久しぶりだ。
シオンには絶対嫌われたくなかったから。
人間、同じような感性の奴と一緒にいるのは楽だ。
考え方の違う相手と一緒に居るには、互いにかなりの努力が求められる。
その労力を厭わないかどうかで、関係が長く続くかどうかが決まる。
結局のところ、俺はシオンが好きなんだ。










いつもはパソコン直接入力するのですが、この話は旅先で考えたので紙に書いたものを写しています。やっぱりキーボード叩くより手で書くほうが早いから、話のリズムがいいですね。会話中心の話は、一旦紙に書くようにしようかな。
○○の部分は字数は関係ありません。2文字の言葉を考えても意味ないですよー。書きたかったのは喧嘩の原因ではなく経緯なので。
実はこの話、半分以上実話です(苦笑)。テッドもシオンも私。複数の出来事をブレンドして、この2人に置き換えてます。そろそろ時効という事でっ。関係者の方々、駄目なら連絡くれれば下ろします〜。(って多分これ読まないだろうけど)
字書きは何でもネタにしますから!(爆)



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