毎日続く秋の長雨にうんざりする。
雨は嫌いではないけれど、やっぱり晴れの方がいい。灰色の雲と絶え間なく続く雨音は、静けさと同時にもの寂しさをも連れてくるから。 薄暗い家の中で湿気を含んだ重い空気に包まれていると、何もする気が起きなくなる。 何度も読み返したはずの本を開き、ちっとも頭に入って来ない文字の羅列を目で追い――やがてパタンと閉じる。 こんな時は、時間の流れがひどくゆっくりだ。 家事をしようにもこの雨では洗濯はできないし、掃除をするのも料理をするのも億劫だ。 まるで猫のように、じっと部屋の隅に蹲る。 退屈。 話し相手がいればこの緩やかな時間も楽しめるのだろうにとは思うが、雨の中出かける気にもなれず。 出窓に腰掛け、窓に打ち付ける雨粒をぼんやりと眺めながらうとうとしかけた時。 「こんにちはー、テッドっ」 前触れもなく勢いよく玄関の扉が開いて、聞き慣れた声が耳に飛び込んで来た。 「……シオンっ?」 「えへへ、退屈だから遊びに来ちゃった。凄い雨だよねー。コート着て来たけど、もうびしょぬれ」 入り口で、濡れて重くなったレインコートを脱ぎながらシオンがにっこり微笑む。 「グレミオの焼きたてクッキーを持ってきたんだ。一緒に食べよう。それと面白い本が手に入ったからテッドと見ようと思って」 「……」 灰色だった室内が二つの琥珀の輝きに照らされ、みるみるうちに色を取り戻す。 家の中は先ほどまでとは何も変わっていないのに、シオンがいるだけで暖かな居心地のいい空間へと変化する。 こんなひどい雨の日に、シオンが自分に会いに来てくれたという嬉しさが、体を包んでいた気だるさを消していく。 「ほら、これで早く拭け。風邪ひくぞ」 コートの下から大事そうに取り出した包みを受け取って、代わりにタオルを頭から被せてやる。続いて引き出しから渇いたシャツとズボンを引っ張り出して、シオンに渡した。 「これに着替えろよ。濡れた服はそこの籠に入れとけ。暖炉で乾かしておくからさ」 ありがとうと返された言葉に、感謝したいのはこちらの方だ。 「今温かいお茶を淹れて来てやるから、おやつにしようぜ。折角のグレミオさんのクッキー、焼きたてのうちに食べなきゃな」 「うんっ」 シオンを残して台所に向かい、鼻歌を歌いながら水をはったやかんを火にかける。 美味しいお菓子と温かいお茶。何時間でも話題の尽きない最高の話し相手。 これだけ揃っているなら、雨の日も悪くない。 テッドオンリーイベント「今だから、テッド祭」で配布したチラシより、1サイド。 テーマが雨なのは、チラシを作った日が雨だったからです(単純な理由) |