雨の日は甲板に上がれないので、船内の人口密度が高くなる。
食事を取りに行っても、風呂に行っても、図書室に本を返しに行っても人が溢れていて、適当に新たな暇つぶし用の本を借りるとさっさと自室に戻った。
船室が連なる第四甲板の、障害物のない長い廊下は子供たちの格好の遊び場となっている。
扉の向こうから聞こえてくる、子供嫌いには堪らないだろう甲高い歓声。
子供は嫌いではない。子供たちの素直な笑顔や笑い声は、人嫌いを装うテッドの頬すらも時に緩ませる。
「おにいちゃん、あそぼ?」
「いいよ、何をして遊ぼうか」
舌ったらずな幼い少女の声と、いつも第四甲板をうろついているすっかり覚えてしまった仲間の声に何となく興味を引かれ、テッドは惰性で読んでいた本から顔を上げ、廊下へと意識を向けた。
「んとね、かくれんぼっ」
「じゃあ僕が鬼をやるから、君たちは隠れてね」
わーっという歓声と共に、小さな足音がばたばたと四方に散らばっていく。
いーち、にーと大きな声で10まで数え終えた所で、鬼である彼が動き出した。
大して隠れる所のない場所では、子供たちはすぐに発見され、その度に歓声が上がる。
それらは飽きもせず何度も何度も繰り返され、人の多い所は慣れていないという彼の子供好きな一面を覗いた感じで、テッドは興味深げに扉の向こうの音に聞き耳を立てる。
「じゃあまたわたしがおにねっ」
鬼役の少女が数を数え始めると、再び楽しそうな足音が散った。
その中の、明らかに他と違う重い足音がテッドの部屋の前まで来たかと思うと。
「ごめんねテッドくん、匿って」
そーっと扉を開けて、アルドが室内に滑り込んできた。大きな図体の割りにその動作に音は殆どない。
「……部屋の中に隠れるのは反則じゃないのか?」
「そうなんだけど…そろそろ疲れちゃって。少し休憩」
子供たちは元気だね、とアルドが楽しそうに微笑む。
10〜と少女の叫ぶ声がして、鬼が捜索を始めたらしい。テッドの部屋の前を通り過ぎる時、扉にへばりついているアルドの体に少しだけ緊張が走ったのがおかしくて、気づかれないよう小さな笑みを洩らす。
「アルド」
「…え、何?」
気配が去ったのを確認してほっと溜息を吐いたアルドに向かって、
「そこだと見つかるだろ。もっと部屋の奥にいろ」
「え……あ、ありがとうっ」 
かくれんぼをしていた子供たちと同レベルで嬉しそうに近づいて来るアルドを、内心の笑いを隠していつもの仏頂面で見あげる。

こいつを見ている方が、本を読むよりよっぽど面白い。






テッドオンリーイベント「今だから、テッド祭」で配布したチラシより、4サイド。
アルドは子供に人気があると思います。




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