血液型




突然、フレアに訊かれた。

「アスって何型?」
「……何が?」
「血液型よ。自分の知らない?」
「……B型」
ガイエン海上騎士団では、入団時の健康診断で血液検査が義務付けられている。
寮内の感染症の予防と、訓練や実践で怪我をした時に素早く輸血できるようにだ。
だがアスは、その前から自分の血液型を知っていた。
身元探しの手掛かりになればと、ラズリルに漂着したアスの健康チェックをした医師が、血液型判定も行ってくれていたのだ。
結局、海で行方不明になった赤ん坊を探しにラズリルを訪れた者はおらず、輸血が必要な大きな怪我をした事もなかったので、血液型を知っていても今まで何の役にも立たなかったのだが。
「あらそうなの!父と同じね。私はO型で母と同じなのよ」
何やら嬉しそうな声をあげるフレア。
O型と聞いて、ふと懐かしい記憶が頭を掠めた。
アスが6歳位の頃、午前中の勉強を終えたスノウが水汲み中のアスの元にやってきて、にこにこ笑いながら言った。
――知ってるかい?アス。O型は全部の血液型の人に血をあげられるんだよ。僕はO型だから、アスが怪我をして血が必要になったら、僕のをあげるからね。
その日の講義で家庭教師から聞いたのだろう。スノウは新しい知識を得ると、よくこうしてアスに教えてくれていた。大人たちに説明しても、凄いですねと褒めるばかりで驚いてはくれない。屋敷内で唯一の年下であるアスは、スノウにとって格好の知識披露の相手だったのだ。
――でも……そしたらスノウが痛いよ。血を取るには注射しなきゃいけないでしょう。
スノウは注射が嫌いだった。予防接種ですら怖がるのに、注射器で血を抜いたら目を回して卒倒
してしまうかもしれない。
するとスノウはややむっとした顔をして、
――もう子供じゃないんだから、痛いのなんて平気だよ。この前の予防注射だって泣かなかったんだから!
――予防注射より、血を取る方がずっとずっと痛いと思うよ…。
――うっ…だとしても、アスが死んじゃう方が嫌だもの!平気だってば!
強がりなのは判っていたし、実際にアスが血が必要になったとしても、使用人にスノウの血を輸血するなどフィンガフート伯が許しはしないだろう。
だがあの痛がりのスノウが、自分の事も顧みず、アスを救いたいと思ってくれている。
その事が凄く嬉しかった。
――ありがとう。僕もスノウが怪我をしたら、血をあげるね。
だからお返しをしようと思ったのに、スノウは頷いてくれなかった。
あげるのはいいけど、貰うのはやっぱり嫌なんだろうか。使用人の血が体の中に入るなんて、気持ち悪いと思っているのだろうか。
不安を浮かべたアスに、スノウは申し訳なさそうに言った。
――ごめんね、O型はO型からしか貰えないんだ。
傍目にも判る位、がっくりと落ち込んだ。
自分はスノウから貰えるのに、スノウにはあげられないなんて。
合わない血液を入れると死んでしまうと聞かされては、駄々を捏ねることもできない。
せめてと、当時使用人仲間たちの血液型を片っ端から聞いて回り、誰がスノウの命綱になれるか把握した。
その時気づいたことがある。同じ血液型の者同士は、皆どこか似たタイプだったのだ。
血液型ごとに性格に特徴があるという話は、占い好きの使用人仲間の女性から聞いた。
O型はおおらか、B型は個性的、A型は几帳面でAB型は内心を見せない。
だが特徴と全く違うタイプの人間はいたし、血液型による性格分けに根拠はないらしい。
ただのお遊びよ、と教えてくれた女性は笑った。
そんな彼女の血液型もO型だった。
「だからアスも後ろを振り返らないのかしら。B型って前ばかり見ている気がするわ」
溜息交じりに洩らした愚痴は、リノのことだろう。
「普段は向こう見ずなのに、変なとこ心配性なのは、フレアがO型だからか」
「あら詳しいのね。アスもこういうの信じる口?」
フレアの青い瞳が、悪戯っぽく輝く。
この場に第三者がいたら、向き合う瞳の酷似に気づいたかもしれない。
「いや。昔色々教えて貰ったから」
「信じてはいないけど、考えるのは楽しいのよね。それに案外当たってると思うのよ」
「ああ、俺もそう思う」
だって、とアスは屈託の無い笑みを浮かべ、
「俺が一目で好きになる人は、大抵O型なんだ」






アスとフレアで血液型の話をするが、突然降って来た。
アスとスノウの血液型は決めてあって、フレアは直感。フレアがO型なので、リノもアスもBOです。
後、アスの周りのO型はテッドとタル。
O型は違う血液型にも輸血できますが、非常時の最終手段であって、現代の日本では同じ血液型同士のみの輸血になっています。



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