闇の中の住人たち
「あーあ、退屈」 「そうねえ・・・ここのところ外も平和だしねぇ」 こぽこぽと小気味いい音を立てて、湯飲みにお茶が注がれる。 「シオンのヤツは、すること無いとほんっとに一日ぼーっとして過ごすからなあ。爺むさい」 「釣りって見ている方は退屈なのよね」 はい、と差し出されたお茶をすすりながら、俺は大きなため息をついた。 「またシオン入って来ないかしら。前回来たのはいつだった?」 「うーん・・・5日前かなあ。そろそろ繋がってもいいと思うんだけど・・・」 指折り数える俺を見て、オデッサがクスクスと笑う。 「待ち遠しいわね♪テッド」 「なんであんたが待ちわびるんだよ・・・」 「あなた達がどうなるのか凄く気になるもの。邪魔はしないから、出刃亀するのは許してよね」 「おいおい・・・・」 「だってここには他にすることって無いのよ?あなたのように好きな人と会えるわけでもなし・・・これ位いいじゃないの」 それを言われてしまうと、俺は立場が弱い。なんだかんだいって、俺はシオンとこうして時々は会えるのだ。シオンの目を通して恋人を見つめるしかないオデッサと比べると、俺は本当に恵まれている。 でもなあ・・・・ 「気持ち悪くないか?その・・・男同士なんてさ」 上目遣いにちらりと見上げると、オデッサが楽しそうに笑った。 「そうねえ。ビクトールのような筋肉男だったら嫌だけど、あなたたちのような少年だったら全然平気ね。むしろ目の保養って感じかしら。シオンがあんなに必死な顔するのもかわいいし、テッドのしおらしい姿も見られるしね」 「オデッサ・・・・」 「必死に声を押し殺すあなた、本当に色っぽいわよ。素直に声出すより、よっぽどシオンを刺激してるって気づいてないの?うっすらと目に涙なんて浮かべようものなら、もうシオンの理性なんて完全に飛んじゃってるわよ」 がっくり。何も言えずに項垂れてしまった俺を、オデッサの白い手がいい子いい子するように撫でる。 「まあここにはテオ殿もいるしね・・・・。声を殺したくなる気持ちはわかるわよ。でもテオ殿はもう完全に”お籠り”状態になってるんだし、気にしなくてもいいんじゃないの」 そうなのだ。テオ様は元々グレミオさんの抜けた分までがんばってくれてたから、俺たちよりも疲労が激しく寝ていることが多かった。シオンが初めて来た時もテオ様は丁度寝てて、二度目の時は・・・・会話をバッチリ聞かれてしまったらしい。その後俺と顔をあわせた時に、申し訳なさそうな目で俺を見て、俺の肩をぽんと叩き、「シオンを頼む」と言い残すとダッシュで消えてしまった。・・・・以来テオ様は俺たちの前にも姿を現さない。 それって公認の仲じゃないの、とオデッサはからからと笑ったが、俺はテオ様に申し訳なくって・・・・・涙。 自分の息子がホモになっちまったんだぜ?しかも自分からやる方。ショックだよなあ・・・。相手が絶世の美少年ならまだしも、相手は俺だし・・・・。 お籠りしているとはいえ、テオ様に”その声”を聞かれているのは確かだ。ここでもかなりの距離をとればそうそう声なんて聞こえないけど・・・・・そういう声ってのは響くじゃん?しゃべってる内容は聞こえなくても、そういう声はさ・・・・。絶対声なんか上げられるもんか。 オデッサに聞かれるのはもう諦めてるけど・・・・。 「そういう問題じゃないだろ。普通誰かに聞かれてる状態で、素直に声なんか出せるかっての。あんただってそうだろうが」 「うーん・・・私はそんなに気にしない方だから・・・・気持ちよくなれば素直に声出すわよ。気持ちよければね」 「・・・・・それって良くなかったのか?」 「言わないであげてよ」 俺はシオンの目である水鏡越しに見た、フリックさんを思い浮かべた。解放軍時代のあの人は25歳って言ってたか・・・。情けないヤツ。 「その点シオンはいいわよね。あの子すごくうまいじゃない。まああなたがシオンにメロメロな所為もあるんだろうけど」 「なっ・・・・誰がメロメロだってっ!!」 「メロメロじゃないの。キス一つで腰砕けちゃって。経験豊富なテッド様の名が泣くわよ?」 「あ、あれは急だったから・・・・びっくりして・・・」 「それは最初だけでしょ。最近はもうキスだけでもうその気になってるくせに。ああ、いいわよねえ。私男運無かったのかしら・・・・」 「オデッサ〜〜〜〜」 「なんならテッド、私と寝てみる?自慢のテク、是非見せて欲しいわ」 「おいおい、冗談も大概にしろよ・・・」 「冗談じゃないっていったら?」 オデッサの瞳が急に真剣味を帯びて・・・・誘うような瞳で見つめてくる。 俺はごくり、と息を飲んだ。オデッサの視線から、目が離せない。 やがてどちらからともなく顔を近づけて――― あと少しで唇が触れるといった瞬間、閉じられた空間が開かれた気配を感じて二人とも動きが止まった。 すっと身をひくと、オデッサは長い髪をかきあげて静かに笑った。 「・・・・シオンが来たみたいね。行ってあげなさい」 「オデッサ・・・」 「ふふっ、冗談よ。ちょっとからかってみただけ。さあ、シオンが待ってるわ。早く」 くずくずしている俺を立たせて、オデッサがシオンのいる方向に向けて背をぽんと押した。 俺はちょっとオデッサを振り返り――それからシオンの元へと走った。 「ちょっとだけ・・・本気だったのよ。テッド・・・・」 オデッサの呟きは、誰にも聞かれることは無かった。 わー、テッド×オデッサです(笑)凄い。こんなカップリングはうちだけだろう(爆) |