彼方へと続く




都市から遠く放れた小さな村の唯一の宿屋は、旅人を受け入れるだけではく、夜は村人の日々の憂さを少しだけ晴らすための酒場となる。
粗末な丸テーブルの周りに集まって安酒を煽る彼らは、こうして今日一日の疲れを取り、明日を生きる糧とするのだ。
酒場は宿泊客の食堂も兼ねていて、子供連れの客の為に隅のほうに小さな仕切りが設けられている。
その仕切りの影で静かに食事をしていた少年は、人の気配を感じてふっと視線を上げた。
「こんばんは。ここ相席いいかな?」
着いたばかりなのだろうか。フードを深く被った旅支度のその男は、少年の向かいの空席を指差して訊ねる。
わざわざ衝立のこちら側に来たという事は、酒が飲めない口か。飲めなくては、あちらには居られまい。
「どうぞ」
「ありがとう」
唯一見える口元がにっこりと笑った。人懐っこそうな明るい声だ。
今までの経験からしても、こういうタイプは話し好きだ。これは今夜の食事は賑やかなものになるだろう。
見ず知らずの人物との、一夜限りの会話は嫌いではない。どうせ明日宿の前で別れれば、二度と会うこともない相手だ。今まで巡ってきた村や町の話をしたり、近辺の情勢の情報交換をしたり、延々と相手の話を聞いてやったりと、その時々の話に花を咲かせる。
彼とはどんな話題になるだろうか。どちらにしても久しぶりに明るい会話が出来そうだ。
「夜中になる前に着けてよかった。今日も野宿かと焦ったよ。もう殆ど水が無くてね」
荷物を宿屋の主人に預けた彼が戻って来た。その声に聞き覚えがあるような気がして、僅かに眉を寄せる。
もし以前に一度会った事がある相手なら、うかつな話は出来ない。
「食糧はともかく、水がないと旅はできないからね」
「そうだね」
言いながら席に着いたフードを被っていない彼の顔を見て――絶句した。
「………あなたは…」
「あ、僕の名はコウ。初めまして」
名を問われたと思った彼が、自己紹介をする。その名前の酷似に更に驚きが深くなる。
彼は年齢を除けば、自分がよく知る人物と瓜二つだった。
茶色のさらさらの髪、ヘイゼルブラウンの丸い瞳、警戒心を解かせる笑顔。
(コウリ……っ)
かつて共に戦場を駆け抜け、同じ英雄の名を頂いた友。
コウと名乗った男は、記憶の中の彼と同じ笑い方で微笑んでいる。


「この料理、初めて食べたけど凄く美味しいなあ。後でご主人に作り方教わろう」
嬉しそうに食べ物を口に運ぶコウを、怪しまれない程度に見つめる。
他人の空似と言うには、男はあまりにもコウリに似過ぎていた。
年の頃は30歳前後。後ろで一つに束ねた肩までの長い髪以外は、シオンの知るコウリをそのまま大きくした感じだ。
最早遠い記憶になってしまったコウリの顔だが、コウを見ていると鮮やかに浮かんでくる。
こんな顔で、こんなことを喜ぶ人間だった。食事は食べることも作ることも好きだったコウリだ。彼が今ここにいたら、きっと同じような反応をするのだろう。
「君もずっと旅を続けてるんだね。僕もなんだ。親が死んで一人ぼっちになってから、する事がなくてふらふらと全国を旅して回ってる」
「どのくらい旅を?」
「そんな事忘れたな」
さらりとした言い方は、シオンもよく使う。相手に重ねて訊ねる事を憚らせる、そんな口調だ。
生まれはグラスランド、武器は双剣。武器こそ違うが、両手で扱うという点ではトンファーと同じだ。
「あなたの父…いやお祖父さんの名前は?」
過ぎ去った年月を考えれば、息子というより孫に当るだろう。
「さあね。僕は孤児だったから。養父が僕を拾って育ててくれたんだよ」
経歴までも彼と同じなのか。
「そうか…」
身元を確認する術は失ってしまったが、この容姿と生誕地を考えても彼がコウリの子孫なのは間違いない。
孤児だったという事は、コウリは一体どうなったのだろう。統一戦争終結後、グラスランド近くの村の、ナナミとジョウイと暮らす家に半年ほど世話になった事があるが、そういえば彼らとはあれっきりだった。「おばあちゃんになる前にまた会いに来てね」というナナミとの約束も果たしていない。あれから50年近い歳月が流れてしまったが、彼女はまだ健在だろうか。
「何故僕の祖父のことを訊くんだい?」
「僕の知っている人に似ていてね」
「その人は僕の祖父程の年なのかい?僕の顔を見て思い出したと言う割には、随分年上だね」
「……若い頃の肖像画を見たんだ」
「ああ、なるほど」
それ以上コウは追求してこなかったが、シオンを見つめるヘイゼルの瞳には全て見透かされているようで、背中に冷たい物を覚える。
彼を侮ってはならない。
一見どこにでもいる普通の男だが、時折鋭い洞察を見せる。
その後は選んで当たり障りのない会話をした。最初にシオンが期待したように、他愛ない楽しい旅の話だった。



翌朝、彼らは共に宿を後にした。
コウはこれから北の方に向かうという。どうせなら別れ道まで一緒に行こうというコウの誘いを受け、二人は一時旅の同行者となった。
高い身長と引き締まった筋肉。その立派な体格に恥じず、コウは強かった。
雑魚のモンスターなら一撃で切り倒していく。力技であるトンファー使いだったコウリに似て、コウの剣技は力強かった。その技は、スッと肌を切り裂く片手剣ではなく、骨まで断つ両手剣に近い。それを両手で繰り出すのだから、攻撃力の高さは半端ではなかった。
「強いね」
「君こそ」
頬についた返り血を拭い、コウが笑う。人の良さそうな顔のくせに、剣を振るう様は正に鬼人だ。
「どうして武器に剣を選んだんだ?」
トンファーは本気で相手を殺そうと思えば、かなりえぐい死体が出来上がるが、普段はあまり血を見ることのない武器だ。
だが剣は確実に相手に血飛沫を上げさせる。この顔に血は似合わない。
「一人で旅をするには、殺傷能力が高い方が便利だからね。君は何で棍を選んだんだい?」
「父が選んでくれたんだ。途中で何度か転向しようかとも思ったけれど…やはり手放せなくてね」
「僕は棍は駄目だったなあ。スピードはあっても、身をかわす柔らかな動きが出来なくて。棍使いとの打ち合いは慣れてるんだけどね」
ねえ、と逆光の中でコウが振り返る。
「僕と手合わせしてみないかい?勿論……本気で」



棍使いとの打ち合いが慣れているというのは嘘ではなかった。
棍先の動きで、次にシオンがどういう攻撃を仕掛けるのか読まれている。
だが読めたからと言って、必ずかわせる訳ではない。シオンのシャープで自在な棍捌きは、何度もコウに冷や汗を流させた。
勿論コウの方も負けてはいない。ぶうんっと風を切って繰り出される剣圧で切れたシオンの髪が、パラリと空に舞う。
「僕の方が不利だな。一撃でも受けたら命がない」
「急所は外すよ。近寄らせても貰えない相手に言えたセリフじゃないけどね」
長い棍に阻まれて、コウの剣先は相手まで届かない。鋭い刃を持つ剣と、所詮棒でしかない棍では直に打ち合えば棍が負ける。
自然二人の戦いは、相手に直接触れず風を唸らせる、武器の繰り出し合戦となる。

「チェックメイトだ」
長い戦いの末、シオンの棍がコウの喉元に突きつけられ勝負は決まった。剣を鞘にしまい、やれやれと肩を竦める。
「やっぱり適わなかったか…」
「本来の武器だったらどうかは判らなかったけどね。どうして武器を変えたんだ?」
「一人旅をするにはその方が便利だからって言ったでしょう。……そう睨まないで下さいよ。確かにそれだけが理由じゃないけど、それも嘘じゃないんですから」
口調が年上に対する敬語に変わった。シオンが良く知る、懐かしい彼のものに。
「偽名なんか使って僕を騙して……たっぷりと申し開きしてもらうからな」
「ええ。勿論です。その前に……これを退かして貰えると有り難いんですけど」
彼の喉には未だ棍が押し当てられたままだ。
「ふん。このまま突いてやってもいい位だ」
吐き捨てて、シオンがスッと棍を引く。
「ありがとうございます」
コウは――コウリはその場に腰を下ろすと、昔と全く変わらないかつての戦友を見上げた。
「シオンさんもどうぞ。長い話になります。……宜しいですか?」


並んで腰を下ろし、改めてコウリの顔をじっくりと眺める。
外見は30歳そこそこのコウリだが、実際は70歳位になっているはずだ。
その意味する所はといえば。
「もうお気づきでしょうが…僕は始まりの紋章を継承しました」
使い込まれた手袋の下から出てきたのは、シオンが知る物とは全く違う紋章だ。
「ジョウイもナナミも生きています。最も、そろそろ二人とも天からのお迎えが来てもおかしくない年ですけどね。二人に最後のお別れをしに、一度訪ねようと思ってるんです」
そう言って微笑むコウリの表情に、かつての狂気じみた色はない。
――ナナミとジョウイを失ったらきっと僕は狂う。
昔、揺ぎ無い眼差しでそう断言した少年は、老いない体を抱え、何を想い、どんな気持ちでこの年月を過ごして来たのだろうか。
「40年前、僕はこの紋章をジョウイから受け継ぎました。理由二つあります。一つは封印する方法が見つかる前に、再び紋章が僕たちの命を削りだしたこと。紋章の力は極力使わないようにしていましたが、大切な人の命を救う為に、僕は輝く盾の力を使ってしまった」
――お願いっ、この子を助けてっ!!
封印方法を探す旅から一旦戻り、結婚して幸せに暮らしている筈のナナミを訪ねた二人は、そこで母の悲痛な願いを聞く。
その年村を襲った疫病は、子供たちの命を次々と奪っていた。
大人がかかっても数日寝込む程度ですぐに治るこの病も、抵抗力の無い子供には命に関わる。病はこの辺り一帯に広まり、ワクチンは既に底をついていた。今は遠くデュナン地方までワクチンの申請を出しているが、その間も幼い命が失われ続けている。
水の紋章では体力回復や怪我を治すことは出来るが、病は治せない。
自分たちを慕ってくれているナナミの子供も、今正に死と戦っていた。コウリたちが戻る数日前から熱を出したという彼は、ワクチンが手に入らなければ後数日の命だった。
――お願いコウリ……助けてよぉっ……
ナナミだとて、コウリが紋章の力を使えばどうなるかは判っている。だが母の我が子を想う気持ちが、二人にとって非情とも言える言葉を吐かせた。
「僕は紋章の力を使いました。ワクチンの到着を望むたくさんの母たちの前で――ナナミの子供を救ったんです」
真の紋章の力を目の当たりにした母たちは、コウリに縋った。
コウリは子供たちに回復魔法をかけ続けた。ジョウイは何も言わず、コウリと共に村中の病気の子供の家を渡り歩き、献身的に介護した。
翌日以降も、噂を聞いた近隣の村から訪れた、病気の子供を抱えた親たちの行列は後を断たなかった。ようやくデュナンからワクチンが届いた時には、コウリの家の前の行列は既になくなっていた。
――ごめんね……ごめんねっ、二人とも…
子供たちの代わりにベッドに横たわる二人の枕元で、ナナミは何度も何度も謝り続けた。
「ナナミの子供を救うだけなら、影響は無かったでしょう。でも僕は、敢えて皆がいる前で紋章の力を使った……だからこれは僕が自分で招いた結果なんです」
ナナミと同じように、たくさんの母親が我が子を想って泣いている。
あの弟想いの優しいナナミに、あんなセリフを吐かせるほど、母の想いは強いのか。
自分を産んだ母も、同じように願うのだろうか。我が子の為なら、鬼にもなれるのだろうか。
二人の紋章は今も繋がっている。ナナミがコウリに謝ったように、コウリも隣に寝ているジョウイに、勝手な行動でジョウイの命まで脅かしたことを詫びた。
――謝る必要はないよ。僕が輝く盾を持っていたら、きっと同じことをしたからね。
頬はこけ、青白くやつれた顔でジョウイは微笑んだ。
それはコウリも同じだった。
血圧が下がり、手足が冷たく感覚が無い。統一戦争中、何度となく味わったあの状態だ。
天山の峠で失われるはずだったジョウイの命を繋ぎとめたのは、コウリの強い想いだった。
奇跡は一度きりだから奇跡だ。寝た子を起こせば、盾と刃は再び互いを求め始める。
最早、紋章が引きあうのを止めることは不可能だった。このままでは数日以内に、どちらかが冷たい躯と化すだろう。
それよりは。
「まだ起き上がる力があるうちに、僕はジョウイから刃を継承しました。どちらかの命を奪う前に、紋章を望む姿に戻してやったんです」
「ジョウイはそれを受け入れたのかい?」
「説得は大変でしたけどね」
宿すんなら僕が宿す!と言い張るジョウイを、必死に宥め透かして。
「だけどジョウイには僕らの他にも大切なものがあった。忘れたフリをしても、結局のところジョウイはそれを捨てられなかった……ナナミとジョウイしかない僕と違って、ジョウイには生きる意味があった。これが僕が紋章を継承したもう一つの理由です」
「…………」
「紋章を一つにした後、ジョウイにハルモニアに向かうよう言いました。そこに彼の愛する人がいる事を僕は知っていたから」
「……君は、それで良かったのか?」
淡々と言葉を紡ぐコウリを見上げる。
コウリがジョウイを語る目には、自分と同じ光があった。たった一人の親友。かけがえの無い人。その人さえいれば、世界を滅ぼすことすら躊躇わないと言い切った強い想い。
コウリはあの頃より穏やかになった目で、静かにシオンを見返した。
「真の紋章の片割れしか宿していなかった僕の時間は、止まることなく流れ続けていました。かつてあなたに語った気持ちは嘘ではありませんが……時間が少しずつ、僕の心を変えていました。封印探しの為の、二人きりで過ごした10年弱の幸せな日々は、僕にがむしゃらにジョウイを求めるのではなく、ジョウイの幸せを願う心を育んでくれました。ジョウイを愛する気持ちは変わってません。今も深く愛しているからこそ――僕はこの道を選ぶことが出来たんです」
「コウリ……」
自分より年下の筈の少年に、自分以上の年月を見て、シオンは愕然とした。
肉体の成長は、こんなにも人の心を成長させるのか。シオンの心は、同盟軍の城の屋上でコウリと互いの想いを語り合ったあの頃と何も変わっていない。今もテッドに深く恋焦がれ、彼を取り戻せるなら世界の全てを犠牲にしても構わないと思う。
自分はどれだけ生きても、コウリのたどり着いた境地に行き着くことはできないだろう。
大人になれない子供は、どんなに大人びていても心は永遠に子供のままだ。
自分に紋章を託したテッドを振り返って、その考えを強める。
テッドは子供だった。300年生きても子供だった。子供のフリが上手かったのではなく、大人になれなかったのだ。
「継承して以来ずっと一人で旅生活です。そしたらこの一つ前の村で、棍を持った凄く強い子供がいたって話を聞いて、慌てて追いかけて来たんですよ」
今までの重苦しい空気を払拭するように、コウリがカラリと明るい口調で言う。
「じゃあ最初から僕だと判っていたんだな……。で、素直に名乗らなかったわけは?」
「いやあ、どこまでシオンさんを騙せるかなーって。中々気づいてくれないからどうしようかと思いましたよ」
「僕が気づかなかったら、黙って行くつもりだったんだろう」
「………」
コウリは曖昧な微笑を浮かべたまま答えない。以前はこんな顔はしなかった。こうした所々に離れていた年月を思い知らされる。
「トンファーから剣に転向した訳は?」
「トンファーはナナミのとこに置いて来たんです。あれを見ていると、ナナミとジョウイと過ごした日々を思い出してしまうので。それにじいちゃんは僕に、人を殺す為ではなく自分と大切な人を守る為にトンファーという武器を与えてくれました。そんな優しい武器は、もう僕には似合わない」
でもやっぱり両手に武器がないと寂しくて、双剣を選んでしまったんですけどね、と小さく笑う。
「そういう訳で、騙してたこと許してくれませんか?」
「甘いよ。この僕を謀った礼は、しっかりしてもらうつもりだからね」
「ええ〜そんなあっ」
大げさに、大仰に、あの頃のように返ってくる反応。
「罰として、暫く僕に同行してモンスター退治を手伝うこと。僕はこれからハルモニアとグラスランド方面に行くつもりなんだ。その際に少しくらいの寄り道なら許してあげるよ」
「シオンさん……っ」
ハルモニアにはジョウイが、グラスランド近くの村にはナナミがいる。
できればシオンにも一緒に来て欲しいと思っていたコウリだった。コウリがシオンと一緒にいる所を見れば、二人がどれ程安心する事だろう。
コウリに負い目を感じているであろう二人に、自分は一人じゃないからと言ってやりたかった。
シオンの心遣いに、熱くなった目頭をこっそり拭って、コウリはさも仕方ないという口調で言った。
「判りましたよー。どこまでもお付き合いいたしますよ」
「当然だね。それと、今の君の外見で僕に敬語を使うのは色々と不都合が起きる。よって今後一切敬語は禁止だ」
「駄目ですか?別に主人とその従者って感じで大丈夫だと思いますけど……」
昔シオンがコウリたちの家に居候していた頃、真の紋章の影響でジョウイ共々ソウルイーターの中に行った時も、同じことを言われた事がある。現実のシオンは覚えていないが。
外見がどれ程年下であろうと、シオンは年上である。個人的にも尊敬し、ずっと敬語を使い続けてきたコウリにとって、シオン相手にタメ口をきくのは不遜に思えた。
「さっきまで普通に喋ってただろ。それに僕は従者を連れるつもりはないからね。あくまでも同行者だ」
「あれは演技してましたから。正体がバレた後は難しいですよ……じゃあ人前でだけ敬語は止めるってのはどうです?」
納得しないコウリに、シオンが溜息一つ。
「君とは古い付き合いだろう?」
「はあ、まあそうですね」
「そして君が真の紋章を宿した以上、これからもこの関係は続くわけだ。………いい加減、敬語は止めてもいいんじゃないか?」
「え…っ、それって……」
見下ろせば、どこか照れたようなシオンの膨れっ面。
敬語を止めろという理由は、二人の関係を怪しまれない為ではなく――
「判ったよ。じゃあ普通に話すからね」
嬉しくなって、柔らかな黒髪をくしゃりと撫でる。どうやら自分が思っているより何倍も、シオンはコウリのことを近しく思ってくれているらしい。
「だからと言って子供扱いするな。それにずっと一緒にいる訳じゃない。ハルモニアとグラスランドを回ったら、そこで別れる」
「いいよ。俺もその方がまた再会する楽しみがあるしね」
「俺?」
耳慣れない一人称に、シオンが反応した。
「ん、ああ。さっきまではシオンの手前昔の言葉を使ってたけど、今は俺って言ってるんだ。30にもなって僕ってのも可愛すぎだろ」
コウの時とも、さっきまでとも違う口調と、そのどれもが実に自然である事に呆れる。
これが今の彼自身の喋り方なのだとしたら、一体どれ程の顔を隠し持っているのだろう。
昔の面影を残す童顔の向こうに、窺い知れない一面を垣間見る。この50年はコウリにとって、決して短い時間ではなかったらしい。
「じゃ、一先ずグラスランドに向かおうか。シオンと二人なら楽でいいな」
立ち上がってバサリと長いマントを翻す。
「Wリーダー攻撃もあるしね。トンファーじゃなくてもちゃんとやれるかい?」
同じく腰を上げたシオンが、さっさと前を歩き出す。
「勿論。俺の腕はさっき確かめただろ」
にっと笑って、コウリは慌てず大股でその背を追った。


かつては、コウリが請うて共に戦った。だが今度は違う。
対等に肩を並べる友として、歩いて行く。
二人が一緒にいる期間は短いだろう。だがこの広い世界で、同じ運命を抱えて生きる友の存在は、永遠とも言える二人の人生の支えとなる。











*暑中見舞いリクエストSS*

主ジョウの方ごめんなさい…。二人は永遠じゃありませんでした(爆)互いを想う気持ちは永遠ですけどね!
二人が不老になってるならともかく、普通に年をとってしまう以上関係は長くは続かないだろうなぁとは漠然と思ってましたが、コウリも不惑の30歳を迎えて大人になったようです。
自分のエゴでジョウイを縛り付けるより、ジョウイの幸せを願えるようになりました。この先もジョウイ以上に愛せる人はできないでしょうが、もうジョウイやナナミがいなくても、狂うことなく一人で生きていけるでしょう。(「月鏡」参照)
30歳以降はジョジルですね。うふ。こっちもまた書きたい。
コウリはいい男になったな〜。シオンが成長できない分、コウリの成長っぷりは書いてて楽しいです。精神的な成長には、外見の成長は不可欠だと思います。人の人格形成に、環境は大きく関わって来ますからね。
しかし大人になったコウリなら、主坊もできそうだと思ってしまった辺り(爆)
私本当シオン受けにするの好きよね…。たった一人にだけ攻めってのが好きだからなぁ。
いつか本当にやったら笑ってやってください(笑)


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