塩気を含んだ湿気を吸ったシーツに、、並んで横たわる。
頬杖をついて、明日は何をしようかくらいの気軽さで。汗が蒸発する際に体の熱を奪うお陰で、二人ともむき出しの肩がひんやりと冷たくなっている。 「僕達がこんな事してるって知ったら、みんな驚くだろうねぇ」 くすくすと、唇に浮かぶ楽しげな笑み。匂うような艶かしさも、激しい情熱もなく、ただ相手がいるから求めるのだと、触れ合わずにはいられないのだと、そんな温かい関係になれたのは、テッドが甦ってどれ位経った頃だったろうか。 「そりゃびっくりするだろうよ。グレミオさんなんて真っ青になって俺のこと追い出すかも。あーあ、襲われたのは俺の方なんだけどなー。やっぱ俺が誘った事になるんだろうなー」 「生憎とグレミオは僕という人間を誰よりもよく知っているんでね。今グレミオがこの部屋に入ってきたとしたら、きっと閉口一番『坊ちゃん、何て事をするんですか!』って凄い剣幕で怒られると思うよ」 「……流石だな、グレミオさん…」 マクドール家のものより小さくて固いテッドのベッドは、動くたびにギシギシと耳障りな音を立てる。一人暮らしでなければ、とてもこんな時に使えるベッドではない。 シオンが来るたびにベッドを買い換えなきゃなと思うのだが、一人寝では不自由を感じないので、ついまた次回も同じ事を思ってしまう。 「その時は互いに合意の上だって弁護してくれるだろ?」 まっすぐ天井を眺めているテッドを笑いながら見下ろして、頬に軽くキスを落とす。 「そこで嘘つくほど卑怯者じゃない」 頬がずれて唇同士が重なり。 「ちゃんと相思相愛なんだって言ってよね…」 舌を絡ませ合う深いキスとなる。 濃厚な口付けは、だが更なる欲望を呼び覚ますきっかけにはならない。相手の髪に触れる、体に触れるといったスキンシップの延長だ。 体を重ねるのも同じ。性欲を充たすことが目的ではない。 ただ愛したいだけ。 触れていたいだけ。 互いの熱を交換したいだけ。 「恥ずかしいセリフだな」 唇をぱくりと食み。 「じゃなんて言ってくれるのさ」 「んー……『俺もシオンと寝たくてやってるんです』?」 「露骨だなぁ」 情欲を伴わない軽いキスを互いに繰り返す。 「じゃあアルドにバレたらどうする?」 テッドの体が一瞬硬直したのが、触れている箇所から伝わってきた。 件のアルドはマクドール家の一室を宛がわれており、彼が単独でテッドの家に来ることはまずない。何故か彼自身も、この家でテッドと会おうとはしなかった。 「バレたら困る?」 「大っぴらに言える関係ではないだろうが……男同士だぜ」 「別に僕は気にしないよ。アルドにはバレたくない?」 テッドはソウルイーターの現宿主であるシオンが甦らせた。 アルドはそのテッドの心に反応して甦った。 テッドにとってアルドは、それだけ心を占めた存在という事になる。 それがどんな想いであるかは、残念ながらシオンはまだ教えて貰ってはいなかったし……聞くのも怖かった。 暫くの沈黙の後、 「いや……絶対知られたくないって訳じゃない。あいつもそういうのに偏見はない奴だし。ただやっぱり知人にそういうのがバレるのは恥ずかしくて嫌だな」 「………」 「……何だよ、黙り込んで」 「…………何でもない」 胸が一杯で返事が出来ないのだと、所々非常に鈍感なテッドが気づくはずがない。 嬉しくて。テッドの一番は自分だと、認めてもらえたことが嬉しくて。 「アルドにバラしたいなぁ…」 優越感を満足させようと、ちょっぴり意地の悪い面が顔を覗かせる。 「げ、頼むから止めてくれっ。不可効力でバレるならともかく、わざわざ言う必要はないだろっ」 「……今度僕がテッドの家にいる時に、アルドが来るよう用事を頼んで…」 「やめろっての!」 ブツブツと悪巧みを始めたシオンの頭を横からゴンっと殴る。 「痛いーっ」 「殴られるようなことしたのはお前だ」 睨みつけるテッドの頬が少しだけ赤くなっていたので、これ以上苛めるのはやめることにする。 「ちぇ。判ったよ。二人だけの秘密もいいか」 「秘密って言うほどの事でもないけどな」 膨れた頬にもう一度柔らかいキスをして。 広い世界と、気の遠くなるような長い時間の中でたった一人だけ。 魂が呼び合う唯一の存在。 夜中に突発に書きたくなった坊テ。 創作には勢いが大事だ! |