憎しみ



頭の中で数を数える。

いち、にー、さん、しー…

引かれて、また押し込まれて1回。その速度が、背後に聞こえる息づかいに合わせて少しずつ早くなる。
(あと何回で終わるかな…)
摩擦で熱くなった下半身とは対照的に、脳は恐ろしく冷めている。
躰の痛みよりも、自分の腰を掴む手よりも、この行為自体よりも、ベッドが軋む音の方が気になる。
(安普請のベッドだからなぁ…こう乱暴に扱われると、そのうち足が取れそうだよな)
まあそうなったら屋敷の方に請求すればいい。何せ原因はお屋敷の大事なお坊ちゃまの所為なのだし。

じゅー、じゅーいち、じゅーに、じゅーさん……

この姿を彼の付き人に見せてやりたいと思う。柔らかい物腰のあの青年は、主が男を、しかも周りには親友と思わせている相手を犯しているなんて夢にも思っていないだろう。愛想は悪いくせに、外面だけは完璧な男だ。
労わりの欠片もない一方的な、とてもセックスだなんて呼べない暴力的な行為。
下半身だけを脱がされ、腰を高く上げさせられ、先ほど彼自身を無理矢理奉仕させられた際の唾液だけを潤滑油に、乾いた入り口に強引に押し込まれた。

じゅーご、じゅーろく、じゅーしち、じゅーはち……

今更強姦ごときでぎゃーぎゃー騒ぐほどのことでもないけれど。綺麗な生き方をしてきたとはとてもじゃないが言えないし、金の為に男に躰を開くのだって別に大したことじゃない。
そう、これだって金の為だ。少し我慢すれば、屋根のある暖かい家と温かい食事にありつける。あの食べる物がなくて胃をキリキリと絞られるような痛みと、このまま眠ってしまったら翌朝目覚めないのではないかという寒さを味わわなくていいのなら、これ位の痛みなんて。
「…………ぐっ……」
一際深い所を突かれて、思わず呻く。
痛みに耐えながら、何で俺なんだろうとぼんやり思う。ただの性欲処理ならこの顔だ。相手など選り取りみどりだろうに。
何もこんな発育不良の男に手を出さなくてもいいだろうに。
だが、か弱いお嬢さん相手にこんな無茶な抱き方をしたら壊してしまうかもしれない。容赦なく身勝手に、やりたい時に好きなだけ犯せる相手というので自分が適任だったのだろう。
欲望に任せて、肉体的な快楽だけを貪る。
彼にとって自分は精の吐き出し口であり、ストレス解消の為の道具。
「……っ……」
短い吐息と共に奥深くに熱い熱を感じて、律動も止まった。ずるりと無造作に引き抜かれる。
一緒に引きずり出された生暖かい液体が足を伝う。とっさに頭を過ぎったのは、またシーツを洗濯しなきゃな、などという現実的な思考。
元々大して着衣の乱れがなかった彼は、もう身支度を整えていた。むき出しの下半身を慌てて隠すような羞恥心などは持ち合わせておらず、疲れきった下肢を投げ出す。
彼はちらりとテッドを一瞥し、無言で家を出て行った。いつものこと。いきなりテッドの家にやってきて、無理矢理犯して、何も言わず去っていく。
養ってもらってる代わりに躰を差し出せと言うのなら、納得するのに。
理由も告げず、気まぐれにいたぶられるのはやはりムカつく。
テッドが苦痛の声を洩らす度に、感情の変化の乏しい瞳には明らかな喜色の色が浮かぶ。彼はテッドを傷つけることを楽しんでいる。
その態度はまるでテッドを憎んでいるかのようだ。
(あいつ、真性のサドだ)
よっと勢いをつけてベッドから起き上がり、上半身の服を床に脱ぎ散らかしながら風呂場へと向かった。
熱いお湯を頭から被ると、ふるふると振って水気を飛ばす。
(憎む……ね)

生憎と、俺は憎まれることには慣れてるんだよ。
ここまで来る間に、たくさんの命をこの手で奪って来たから。
家族と故郷を失った日、見知らぬ男に初めて本気の憎しみの視線をぶつけられて以来、俺は憎まれてばかりの人生なんだよ。
だから今更お前に憎まれたってどうってことないんだ。
それに俺もお前を憎んでるからお相子だろう?

彼の放ったものが湯に薄められ流れていくのを、嘲笑って見下ろして。

(あの男に再び会って復讐するまでは、俺は何があっても生き延びる)
その為なら、どんな痛みも屈辱も気にならない。

憎しみ。
それは生きる為の、力。







*K坊のお母上に捧ぐ*

わーん、やっぱり私には火花バシバシ、憎み合い坊テは難しかったよーっ(><)
途中テッドが坊を許してしまいそうになって、何度も書きなおしました。
本家のK坊のデビューを楽しみにしておりますよ!



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