「どうして真実を告げないんです?」 問いかけに、澄んだ青の瞳が振り返った。 「あの子の母親が死んだのは、あなたの所為ではない。むしろあなたのお陰で、彼女の魂は救われた事でしょう」 泣き腫らし、燃え上がらんばかりの憎しみを湛えた目で、彼を親の敵と罵った子供。 その中傷を、彼は否定する事無く受け止めた。 「あの子はあなたをとても慕っていた。信じていた相手に裏切られたと、どれ程傷ついているか…」 「――あの子はこれから一人で生きていかなければならない」 彼の唇から、静かな声が漏れた。 「憎む相手まで奪ってしまっては酷だ」 誰も責めようがない理不尽な真実を知るよりも、憎しみの炎を燃やす方が生きる力になる。 自分の手で救えないなら、憎ませてやるのが彼の優しさか。 それはなんて温かくて、淋しい。 あの背中が忘れられない。 あれこそ王。真の指導者。 群集の前に立つ時、いつもあの背中を思い出す。 いつか彼の背に追いつけるようにと。 |