「あー、退屈」
シオンのベッドに腰掛けて本を読んでいたテッドが、大きくあくびをする。 「僕は忙しいよ…。暇なら手伝ってよ」 「手伝ったらお前の身に付かないだろ」 「そうだけど」 机の上に広げた課題を眺めて溜息を吐く。 家庭教師に明日までと言われた宿題は、やっと三分の二が終わった所だ。このままもくもくと頑張れば夜までには終わるだろうが、それでは今日はテッドと遊べなくなる。 「判らない所は教えてやるぜ。歴史ならな」 「ほんと!?」 テッドもただ待つだけの時間に飽きて来たらしい。願ってもない申し出に、慌てて歴史の課題を引っ張り出して広げる。 「じゃトゥーリバーの二院議会成立は?」 「太陽暦230年」 澱みなく返って来た答えを解答欄に書き込む。 「デュナン君主国で革命が起き、成立した都市は?」 「サウスウィンドウ」 「ジョウストン都市同盟歴元年は太陽暦で言うと?」 「314年」 「よく覚えてるね…」 そんな昔のこと、とぽつりと洩らす。 「お前つい最近習ったばかりだろ」 「そうなんだけど…」 反論できなくて言葉に詰まる。 「要はやる気の問題」 背後で立ち上がる気配がして。 「最も俺は暗記得意なんだけどな」 「ちぇっ」 隣に来たテッドに、シオンは小さく口を尖らせた。 「で、これが俺の生まれた年」 手袋をしていない白い手が、広げてあった本に書かれている年号の一部分を指し示す。 「……僕の22倍かあ」 暗記はテッドに敵わないが、計算は得意だ。 「敬えよ?」 勝ち誇ったようににっと笑うテッドに、シオンはこれ見よがしにやれやれと肩を竦めた。 「長生きしてもこの程度じゃね。数学は僕のが上」 「なっ、シオン!お前なあっ!」 「嘘だよ」 笑いを堪えてペンを置き、テッドを振り返る。 「長生きしてくれたから出会えたんだよね。ありがとう」 「……!」 この時のテッドの顔を何と表現したらいいだろう。 テッドが300年もの年月を諦めずに生きてくれたから、出会えた。 ずっと一人で抱えてきたものを半分預けてくれたから、こうして共にいられる。 ――何を隠しているの? 奮える心を抑えて訊ねた自分に。 ――……俺は見た目通りの年じゃないんだ。 鉛を飲むような声で、むき出しの右手を掲げてくれたテッド。 そして全てを語った後も、ここに、自分の隣にいてくれる。 「照れてる?」 「煩いなっ」 そんな彼に感謝以外の何を伝えれば良いというのだろう。 「いいじゃん。本当のことだよ」 「……おう」 歴史書に書かれた時代を生きて来た友と過ごす時間。 それはとても優しい時間。 超小部数発行の坊テ漫画本「シーソーゲーム」を小説に焼き直し。 「もしテッドが戦前に紋章の事を坊に打ち明けていたら」というお話でした。何もしてないけど、親友じゃなくて坊テなんです。二人とも相手をそういう目で見てます。 セリフはまんま使っているので、本を持っている希少な人は見比べて見てクダサイ。 |