家族



僕とナナミは育ての親であるゲンカクじいちゃんの元で、姉弟として育った。
勿論本当の姉弟じゃない。じいちゃんの家の前に捨てられていた、どこの馬の骨とも判らない赤ん坊。それが僕たちだ。
でもそれを気にしたことはない。本当の親など必要なかったから。
じいちゃんとナナミが居ればそれで充分だった。


「今日は特製ナナミちゃんシチューよっ」
普通の食材と調味料を使っているはずなのに、どうしてあんなに不味くなるのか不思議でしょうがない。じいちゃんが死んだ今、ナナミの料理が食べられるのは世界中広しと言えども僕だけだと思う。絶対。
僕の次に免疫があるジョウイですら、食事時はできるだけ僕んちに近寄らなかったもんな。たまにどうしても逃げられない時は、相当気合入れて口を開けてたし。
「大丈夫!お姉ちゃんが守ってあげるからね!」
あのさ、もう僕の方が背も高いし力も強いし、どっちかって言うと僕が守る方なんだけど。
ただ素早さだけは適わなかったから、あんまりナナミを戦闘に連れて行きたくはなかった。
ナナミはすぐ僕を庇って飛び出そうとするから。
僕を守ってナナミが傷つくなんて冗談じゃない。
逆だよ。僕がナナミを守りたいんだ。
大切な人一人守れないで、何が軍主だよ。
「ねぇ、一緒に寝ていい?」
夜中に、枕を抱えて僕の部屋に忍び込んで来るナナミ。
原因は夜半から光りだした雷だ。昔からナナミは雷が鳴ると、僕のベッドに潜り込んで来ていた。それは二人で寝るにはベッドが狭くなった今も続いている。
その度に僕は、内心溜息を吐きながら布団を捲りあげるのだ。
肩口に当る温かい吐息。洗い立ての髪から香る石鹸のにおい。密着しているためちょっとの身動きですぐに触れてしまう、夜着から伸びる細い素足。
すやすやと寝息を立てるナナミの隣で、いつも僕は眠れない夜を過ごす。僕を信頼し安心しきって眠る、彼女の眠りを妨げないように。

ナナミは僕にとって、この世で一番大切なひと。


「ゲンカクじいちゃん直伝!!奥義……」
ああなのに。肝心な所で僕は何もできなかった。
ずっと僕が心配していた通りに、ナナミは僕を庇い、僕とジョウイを狙った矢をその身に受けた。
「だ…だいじょうぶ………だいじょうぶ……だから…ケンカ…しちゃ………ダメ…」
痛みを堪えて弱弱しい笑顔を浮かべる。こんな時まで僕たちのことを心配して!
笑わなくていいから、すぐにホウアン先生の所に連れて行くから。
だから死なないでナナミ!僕を置いていかないで!
「ちょっとだけ……お願い……お、お姉ちゃん………って呼んで………」
ごめん。僕はあの時ナナミの最期になったかもしれないお願いを、どうしてもきくことができなかった。
僕にとって、ナナミはナナミで。
決してお姉ちゃんなんかじゃなくて。
僕のたった一人の……



昔も今も変わらずに、僕の隣で無防備に眠るナナミの髪を撫でながら、僕は今日も眠れない夜を過ごす。今夜も外は雷が光っている。
「私たちはずっと一緒よ。だって家族だもん」
そう、僕とナナミは家族だ。ジョウイと三人で作る、暖かい家。
でもいずれ、ジョウイは奥さんの所に帰るだろう。ジョウイは否定しているけれど、僕は知っている。ジョウイがまだ奥さんのことを想ってることを。
ジョウイが奥さんを想う気持ちと、僕がナナミを想う気持ちは一緒だ。
いつか再び僕とナナミは、二人だけの家族に戻る。その時は。
姉としてではなく、弟としてではなく。
一人の男としてナナミの隣に居たいと願う。






今ちょっと主ナナがマイブーム。

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