紫紺の闇の中で、真円の光が幾つも揺れている。 墜ちてゆく感覚とは裏腹に、身体は羽のように軽い。ふわふわと漂い、そのまま流れと共に融けていくような気さえする。エイルは薄く目を開いた。 それはどこまでも碧く、透明な世界で。何か温かいものにふわりと包まれたような感触が心地よかった。きらきらと光る水泡が、花の如く雪の如く舞い散ってゆく様は、まるで御伽噺の一場面のように美しくて。 ―――辿り着いたのだ。恐怖も疑念もなくそう思った。 魂を縛る、長の軛よりの解放。死や終焉という言葉で例えるには、それは余りにも焦がれていた瞬間だった。軍主ではなく、エイルという人間ですらなく、ただの、ひとつの命。己を形作っていたものの全てを捨て去り、ありのままの自分に戻る――これまでの道程全てが、ただこの瞬間を迎える為のものだったのだと、ようやく知った。ならば、意味など無いに等しいと思っていたこの人生も、けして無駄なものではなかったのだと、今なら確信出来る。 波の囁きは、きっと祝福。新たなる旅立ちの序曲。 ―――ふと、懐かしい光景が脳裏を掠めた。 知っているはずなのに、どこなのかは思い出せない。夢で見たのかもしれない。それとも、生まれる前の記憶なのかもしれない。―――思い出せないが、それでも抱き締めてくれた手の温もりを覚えていた。流された涙を、震える吐息の切なさを覚えていた。 潮の香りは、あのときの涙の味にも似て。自然に口許が綻んだ。 碧く輝く海は、懐かしい人の瞳の色を思わせる。 まだ見ぬ光の向こう、最果ての地で、その人は待っているのだろうか。 ―――そうだといい。この命はきっと、そこへ辿り着く為にこそ存在するのだ。 不安も悔恨も何もなかった。ただ会えるといい――祈るように誓うようにそれだけを思う。薄れゆく意識の中で、温かい声が導くように自分の名を呼んでいた。 もう見ることすら叶わなくなった海面へと向けて、暫しの別れを告げるようにそっと手を翳すと、エイルはゆっくりと瞳を閉じる。その顔には微かな微笑みが浮かんでいた。 いつもの皮肉めいたそれではなく、ただどこまでも優しく穏やかな、海のような笑みだった。
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世界に遺した最後の一欠片
それは海のような微笑 BE4主エイル。 エイルの最期を小説で書いて頂いちゃったので、 そのシーンをイラスト化してみました。 匿名でなら掲載可との事で、 宝物部屋ではなくこちらに置かせていただきます。合作! 罰はBEでも肉体消えてなかったよね。 エイルのアップも描こうと思ったけど、描けなかった…(苦笑) この子の表情難しい。 <<-戻る |