……寒い。
ぶるりと体が震える。
べっとりと体に張りつく濡れた服が与える不快感。水を吸って重くなったそれはまるで枷のようで。
ぼんやりと空を見つめる。
服から染み出した水が寝台を濡らして行く。自分の呼吸以外音を立てるもののない静かな室内は、離れた部屋の音をも伝えてくる。
水音が止んだ。
続いてドアを開ける音。近づいてくる、ぺたぺたと素足が床を蹴る音。
テッドがいる部屋の前で、足音が止まった。
「上がったぞ」
寝室のドアが開いた。明かりの点けていない部屋の床に、線状に光が差し込む。
声の主は濡れた頭にタオルを被り、テッドが貸した服を着ていた。服はまだ少しだけ、彼には大きかった。
テッドの姿を見たとたん、彼は怒ったように叫んだ。
「まだ着替えてなかったのかっ。ほら、風呂が空いたから、さっさと行って温まって来い!」
突然激しい夕立に見舞われ、全身ずぶぬれになったのはつい先刻のこと。
雨を逃れてテッドの家に駆け込んだ二人は、冷えた体を温めるのに風呂を沸かし、一緒に入ろうと言い張る彼を、無理矢理風呂に押し込んだ。
お坊ちゃんに風邪引かせるわけにはいかないからな。お前と違ってオレはこの程度じゃ風邪なんて引かないよ、と嘯いて。
「風呂?あー、いい。もう面倒になった」
テッドの位置からは逆光になる彼に向かって言う。
「面倒くさがるなっ。…まったく、嫌なら風呂は入らなくてもいいから、濡れた服を脱げ。風邪ひくだろう」
彼はつかつかと近づいてくると、頭に被っていたタオルでテッドの髪をわしゃわしゃと乱暴に拭いた。
「髪も濡れっぱなしじゃないか。一体何やってたんだ。ほら早く脱げっ」
「そんなに脱がしたいなら脱がせてくれよ」
「…子供みたいなこというな」
呆れながらも、彼はテッドの服に手をかけた。自分以外の手が己の服を脱がしていく様子をじっと見詰める。
「体が冷え切ってる。風邪引きたいのか」
「これくらいで風邪ひくほどヤワじゃないって」
嘘。冷えた体に触れる外気が、ますます体温を奪っていく。寒い。
彼が触れている部分だけが暖かい。
ふと、彼の視線が揺れたのに気づいた。視線を追って気づく。
(ああ、コレか)
全身に残る傷跡。自分が300年の間どういう風に生きてきたのかを、如実に物語るそれら。
(こいつはこの傷を見る度に辛そうな顔するんだっけ)
坊ちゃん育ちの彼にしてみたら、これは当然の反応だろう。
初めて見せた時以来、何も言わないだけ今までの奴よりマシだと思う。同情されるのは真っ平だ。
寒い。
彼が触れている所以外、全てが冷え切っていた。
「……テッド?」
「寒いんだ……」
自分より小さな腕の中に、そっと身を摺り寄せる。
風呂上りの彼の体は温かくて、少しだけ汗ばんでいて、石鹸の香りがした。
「当たり前だ。だから風呂に入ってこいって…」
「……おまえはあったかいな……」
ゆっくりと手を彼の頬に沿え。
吐息を重ねた。
「……っ…何を…」
抵抗する間も与えずに、抱きしめた体ごと寝台に倒れこむ。突然のことに驚いている彼の唇に、もう一度今度は強く自分のそれを押し付ける。
体格はまだテッドの方が上だった。ましてや馬乗りになれば逆転することはまず叶わない。
「放せっ…何考えてるんだ!」
じたばたと暴れる腕を、両手で押さえつける。
「寂しいんだ……今だけ…全部忘れさせてくれ……!」
見上げてくる目が大きく見開いた。信じられないといった彼の顔。
「寂しい……?」
固く引き結ばれた唇を、ゆっくりと舌で辿る。ちろちろと、舌先で擽る。
「ああ…だから……今だけ………」
硬直した彼の体に手を伸ばす。服の上からなんてまどろっこしいことはせずに、直接肌に触れる。まだ若い、青い性に。
「なっ…やめろっ!嫌だっ……」
「…………温めてくれよ…寒いんだ」
手のひらに彼を感じながら、懇願するように呟く。
「………ずるいぞっ…」
彼の顔が泣きそうに歪んだ。
何が?
こうやって押さえつけて、一方的にすることがか?
お前の気持ちなんて考えもせずに、自分の欲望だけ満たそうとすることがか?
それとも……

「ん………ぅ…んんっ…」
快楽の声を必死に堪える姿を見下ろし、唇の端を小さく持ち上げて笑う。
体のうちに感じる熱。冷え切った体を内側から熱くするモノ。
(少年の童貞を奪う、イケナイお姉さんってトコだな)
ぎしぎし、とテッドの動きに合わせて安普請のベッドが軋む。
(本当はさ、抱いても良かったんだ)
彼を身の内に入れるんじゃなくて、彼を侵食しても良かった。
(でもきっと、お前はこの方が傷つくだろう?)
抱かれるより抱いた方が。
痛みより快楽の方が。
(傷ついてくれるだろう?)
だからオレはお前を許したんだ。








てぼなぼてです。萌えまくりました(爆)そして大笑いさせてもらいました(爆笑)



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