古き年の終わり、新たな年の始まり



部屋に着くと同時に、シオンはばたりとベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
続いてテッドもその隣に寝転がる。いつもより少しだけ夜更かししている所為で、シオンの目は既にとろんとしている。
仰向いたまま首だけ動かしてシオンを見やると、必死に睡魔と戦っているのが判って思わず笑みが零れた。
「何笑ってるんだよぉ……」
目をこしこし擦りつつ、何とか目を開けようとしているシオンの頭をぽんぽんと叩く。
「もう眠いんだろう?年は越したし、無理しないで寝ろ」
「……やだ……僕まだテッドにおめでとうって言ってない……。テッドも言ってくれてない……」
「そうだったか?悪い。……明けましておめでとう。そして13歳おめでとう、シオン」
「うん……テッドも13歳おめでとう……」
古き年が終わり新たな年が始まる日、皆一つずつ年をとる。誕生日は生まれた日でしかなく、成長を祝うのは年明けの時だ。生まれて最初に迎える新年で一歳になる。シオンは真冬生まれだから、実質年齢とほぼ同じだった。
「一つ大人に近づいたね……」
うとうとしながらも嬉しそうに微笑むシオンに、小さく胸が痛む。
だがそれを隠して何事も無かったようにテッドは笑った。
「ああ、そうだな……。一年なんて早いよなあ……」
「……テッドは嬉しくないの?」
「嬉しいさ。今年はどんな年になるんだろうってわくわくする。一年前はまだお前と出会ってもいなかったしな」
「そうじゃなくて……大人になるのが、だよ……」
言いながら、眠くて寒いのかシオンが暖を求めるようにテッドの方に擦り寄って来た。苦笑しつつその肩を抱くと、左肩の上に頭を乗せてくる。
テッドが返事を言うまもなく、すぐに肩から静かな寝息が聞こえてきた。
シオンが寝やすいように頭を丁度いい位置に持ってきてやり、起こさないよう慎重に足で布団を引っ張り上げると、何とか自分たちの体の上にかけた。
「俺は大人にならないんだよ…。お前ももう少ししたら俺を追い越して行くんだろうな……」
シオンの柔らかい黒髪を撫でながら、ぽつりと呟く。自分はいつまでここに居られるだろう。
紋章に奪われないように、もう誰にも心を残さないと決めたのに、何時の間にか自分の中にずっしりと根を張っていたシオン。
去りがたいと、まだここにいたいと願う自分が居る。
少なくとももう一度、新たな年を迎えるまではここに居てもいいだろうか。
「よい夢を……」
肩のぬくもりに誘われるようにして、そっと目を閉じた。








「おめでとうーっコウリ」
「おめでとうーっナナミお姉ちゃん」
「二人とも11歳おめでとう」
「「おめでとうーじいちゃんっ」」
甲高い二重奏が、いつもは厳ついゲンカクの頬を緩ませる。
「ジョウイも今ごろおうちでおめでとーって言われてるかな」
「ジョウイも一緒にお祝いできたらいいのにね」
顔を見合わせる姉弟の頭を撫でながら、ゲンカクは密かに苦笑した。
「ああ、言われてるだろうさ。さあ、おめでとうも言ったし、お前たちはもうおやすみ」
「えー、まだ眠くないよねっ」
「眠くないよっ」
大きな目をぱっちり開いているナナミと対象的に、コウリの目は半分下瞼とくっついている。それでもナナミの言葉に賛同して頷くコウリに、ゲンカクは作戦を変えた。
「明日の朝一番にジョウイのところに行って、おめでとうを言うんだろう?早く寝ないと明日起きられんぞ」
「……う…そうか……うん、じゃあ寝るねっ。おやすみ、じいちゃんっ。さあ行くよ、コウリっ」
あっさりと言いくるめられたナナミが、ころりと意見を変える。
「おやすみ……じいちゃ…………」
寝るといわれて気が抜けたのか、本格的に目が開かなくなったコウリを引きずるようにしてナナミとコウリの姿は寝室に消えた。
「おやすみ、ナナミ、コウリ……」
一人取り残されたゲンカクはそっと溜め息をついた。ジョウイがあの家で祝福を受けているとは思えなかった。たとえ豪勢な食事ではなくとも、今日ここに呼んでやれればその顔に笑顔が浮かぶのは間違いないのに。
自分もいつまであの子たちの傍にいてやれるか判らない。自分の体の事は自分が一番良く知っている。日に日にはっきりしてくる己の体の不調。
だがもう少し、せめてあともう一度、あの子たちと新たな年を迎えたい。
「ナナミ、コウリ、ジョウイ……お前達にとって、素晴らしい一年であるように」
酒の入ったぐい飲みを乾杯するかの様に掲げ、ゲンカクはそれを一息で飲み干した。





うちの年齢設定話です。数え年で計算するんですが、数えと違って最初の正月で一歳になります。だから12月生まれの子は大変。12月31日生まれなんて、誕生日の次の日に一歳(笑)


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