ゆっくりと互いに手を伸ばす。 目の前にいる存在を確かめるように。 頬に触れる手はほんの少し冷たくて、 手で触れた頬はしっとりと暖かかった。 「……ねぇ、僕の考えてること判る?」 突き合わせた額の向こうで、悪戯っぽくシオンが笑う。 「判るさ」 「へえ、じゃあ何?」 「俺と同じこと」 触れていた額の角度が少しずれて、今度は唇が。 「テッドも僕と同じこと考えてる?」 喋ると唇同士が擦れてくすぐったい。 「ああ。俺がここにいること、お前がここにいることを確かめたい」 「同じだね」 ちゅっと音を立てて、触れるだけのキスをする。 どちらからの? どちらからも。 互いの利き手を伸ばして、相手の襟元を寛げる。残った左手で、相手の動きを手伝ってやる。同じ仕草。鏡を見ているようだ。 「ほっそい首」 「テッドこそ」 くすくす笑って、晒された相手の肩口を軽く食む。まだまだ少年の自分たちの体。もう二度と成長することのない体。 「っ……痛いよ、テッド」 「お前の体、柔らかくて美味そうなんだもん」 白い肌にうっすら付いた噛み痕を、動物みたいにペロペロ嘗める。仕返しっとばかりにシオンが同じ位置に歯を立てた。ちくりとした痛みの後、ざらざらした舌で嘗められる。 可笑しい。自分がしたことが全部自分にも返される。 じゃあこんな風にしたらどうなるんだろう。 「…わっ……いきなり反則だっ!」 服の上からシオン自身をやわやわともみしだくと。 案の定すぐやり返された。自分と同じ大きさの、でも自分とは違う子供の手が、どこか性急とも言える感じでテッドのそれを刺激する。 多分緊張しているのだ、シオンは。 当然だ。恐らく初めての他人との行為、固くならない方がおかしい。 何たって、彼はまだ誕生日を迎えたばかりの15の子供なのだし。 反して自分は見た目は子供とはいえ、経験はしっかりあるわけで。 なのにどうしてだろう。こんな稚拙な愛撫にひどく感じてしまっている。シオンはテッドの動きをそのままやり返していて、つまり自分でやっているようなものだから感じてもおかしくはないのだけれど。 「……っん……」 きっと、耳元に落とされる押し殺した甘い響きの所為。飽きもせず繰り返している肩へのキスと、頬に触れる首筋から伝わってくる、どくんどくんっという鼓動の所為。 体が熱い。 シオンの温もりがテッドの体を熱くする。 テッドの体がシオンの体を熱くして。 そうして互いに、どこまでも熱を高めあって行く。 「…シオン……」 「………テッド…体が熱い…」 「俺も……脱いじまおうか」 「うん。寒くないよね…。だってこんなに熱いんだから」 「寒くなったらもっと熱くなればいいさ」 シオンの手がテッドの服を脱がしていく。肌の表面は冷えて冷たいけれど、体の中はマグマのように熱い。 膝立ちになり、それから腰を着いてズボンと下着を脱がしてもらった。まるで小さな子供みたいで可笑しい。 すっかり全裸になると今度はテッドの番。シオンと全く同手筈で、シオンの服を脱がしていく。 「…子供みたいだ」 シオンが笑う。テッドと同じ感想。 「子供がこんなことしてたらマズイけどな」 「マズイね。大人に見つかったら怒られる」 くすくすと顔を寄せ合った二人の喉から洩れる忍び笑い。素肌が触れ合う感触は、服を着ている時とは段違いに気持ちいい。 自分以外の人の肌。 「あ、こんなところに傷が」 「ここにもあるぜ。あとこことここ」 あちこちに残る古い傷跡を指で指し示すと、シオンが嫌そうに眉を寄せる。 「この傷の時は15針も縫った上に傷口から雑菌が入って熱だしてさ、大変だったんだぜ」 シオンの反応が楽しくて、つい傷跡解説を始めたら、益々眉間の皺が濃くなった。 「そりゃ僕には想像もつかない位生きて来たんだから、傷はあるだろうけどさ、……気をつけてよね」 「紋章のお陰で治りは早かったんだぜ」 「治ればいいってものじゃないだろ。怪我したら痛いじゃないか」 「はいはい、判ったよ」 300年に及ぶ過去を、包み隠さずシオンと語れるのが嬉しい。シオンが自分という人間の全てを知り、尚且つ当たり前のように心配してくれることがテッドの心を温かく充たす。 「……何ニヤついてんのさ」 「何でもないって」 こんな風に、求めて、求め返して貰える幸せ。 「ふーん…まあいいや。続きをしよう」 両肩を掴まれ、え?と思った時は天井を見上げていた。 背中に感じる柔らかなシーツ。真上にあるのは楽しげなシオンの顔。 「ちょっと待てっ!…お前がやるの?」 経験値から言っても、想いの強さから言っても、自分がやるつもりだったテッドである。 まさか自分が押し倒されるとは思いも寄らず。 「うん、君を抱きたい。……駄目?」 「駄目っていうか…お前に出来るのか?」 受身にまわることよりも、そっちの方が心配だ。 「出来るよ。傷つけたりしないから安心して。テッドを愛したいんだ」 「…………サンキュ」 思っても見なかった言葉に面食らい、視線を泳がせながら、あーあ、俺の負けか、とテッドは思った。 一番欲しいものを目の前に差し出されて、拒める筈がない。 経験値はともかく、想いの強さはシオンも負けていないのかもしれない。……いや、やはり自分の方が強いのだ。だってこんなにシオンのことが愛しくて、彼が望むなら己の信条に反する事すら全く苦にならないのだから。 「じゃあ好きなだけ愛してくれよ」 軽口を叩いて、両腕を伸ばし愛しい体を抱き寄せる。シオンがふんわりと微笑み、口付けて来る。 「勿論。一生かけて愛するよ」 END
*たまさんに捧ぐ*
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