「僕はここに残る」
「シオン様!?」
「このテッドを置いてはいけない。テッドはあの道を通り抜けられないかもしれない。彼を一人置いてはいけない……だから僕が残る」
鈴の音は分岐を教えてくれるだけだ。鈴が鳴ったからと言って、テッドがあの道を通れるようになったとは限らない。
チャンスは一度きりだった。連れて行こうとして結局また彼だけ過去に残される位なら、自分が残ったほうが確実だった。
繋いでいたテッドの手に力が篭る。不安そうにシオンを見上げている。
「……解放軍を見捨てる気か?」
「解放軍より守りたいものがある。僕はもう、テッドを決して一人にしないと決めたんだ」
ビクトールの厳しい視線を受け止め、真っ直ぐ見返す。
シオンには、この幼いテッドを二度も置いていくことはできなかった。
彼の傍にいてやりたい。
孤独に怯えることがないように。笑顔を浮かべながらも時折ひどく寂しげな顔をした、シオンのテッドのようにならないように。
現代に戻っても、この先にはシークの谷が待っている。そこで上手くテッドを助けられるとは限らない。
それより今、目の前に自分を必要としているテッドがいる。
自分がここに残ることで、未来は大きく変わるかもしれない……それもまた運命だ。
暫く二人は無言で見詰め合っていたが、やがてビクトールがふっと視線を緩めた。
「決心は変わらねぇんだな?」
「変わらない」
即答する。
「判った、お前はここに残って自分の信念を貫け」
「ビクトール!」
抗議しようとする他のメンバーを制し、ビクトールはシオンに向かってニヤリと笑って見せた。
「お前がそんなことを言うたぁ、よっぽどの覚悟の上なんだろうさ。お前がどれだけ解放軍のこと考えてくれてたかはよく判ってる。そのお前が悩み抜いた末に出した答えだ。俺ももう何も言わねぇ」
「ビクトール……」
「長生きしろよ。そっちのチビ共々な」
「ああ。……すまない」
まだ何か言いたげな仲間たちの背を押し、ビクトールが祠に向かう。
彼はこの先に待つ苦難を知りつつも、シオンの気持ちを汲んでくれたのだ。
祠を包んでいた光は彼らを飲み込むと、やがて何事もなかったかのように消えて行った。
もう現代には戻れない。
「……さあ、行こうか、テッド」
過去を振り払うように、にっこりと微笑んでみせる。
「どこにいくの?おにいちゃん」
「どこにでも行けるよ。それこそ世界の果てまでもね」
「うんっ」
小さなテッドの手を引き、焼け落ちた村を後にする。
二人の永い永い旅が始まる。


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