「お前、普段の時とスノウがいる時とで顔違いすぎやしないか?」
馬鹿にしたようなテッドの声に、アスがきょとんとする。とは言っても表情の変化は傍目からは殆ど判らない。 「いつもは今みたいに無表情の癖に、スノウの前でのあれは何なんだよ。全然別人じゃないか」 「………そんなに違うか?」 「違うね。途中経過を見てなかったら、生き別れの双子じゃないかと思うぜ」 「……スノウの前では、俺はどんな顔してるんだ?」 「飼い主の前で尻尾を一生懸命振ってる犬って感じか。もう嬉しくて嬉しくてしょうがないって顔してるぜ」 「…………」 アスの頬がほんのり赤く染まった。照れているアスなど見るのは初めてで、ぎょっとする。 「おまっ、何赤くなってんだよっ」 「だって恥ずかしいし…」 視線を揺らせるアスに、何だか見てはいけない物を見ている気分になる。 「と、ともかく、騎士団の奴らは見慣れてるから動じてないみたいだけど、他の連中は結構ビビってる。今までお前の笑顔と言えば、ニヤリ笑いや悪戯の後とか、禄でもない時ばっかりだったからな。スノウの前での子供みたいな素直な顔と、俺たちが知ってるお前とじゃ、どっちが本当のお前だったかは一目瞭然だが、リーダーとしてもう少し回りの目を気にしろよ」 「……判った」 黙ってテッドの言葉を聞いていたアスが神妙に頷く。 「だけどできるかどうかは自信がない。俺は態度を変えてるつもりはないんだ」 「そうだろうな。無意識なのは判ってるさ。だから余計に性質が悪い」 こうしていれば、テッドが知るいつものアスなのに。 凛々しい顔立ち、強い輝きを宿したマリンブルーの瞳。彼を彩る形容詞は間違っても「可愛い」ではない。 だがスノウの前でのアスは、見るものの頬を緩ませる。小さな子供や年老いた老人を可愛いと思うあの感覚だ。 先日零れんばかりの微笑みを正面から拝んだ時には、それが背後にいたスノウに向けられた物だと判っていても、一瞬ドキリとした。 (顔は整ってるよな) アスの顔立ちは女性的で、長めの髪も相まって、角度によってはパッと見女性に見えなくもない。鍛え上げられた肉体を見れば、一発で男だと判るけれど。 (睫長いし…) 屈んでいるアスを見下ろして、女の子顔負けの長さにびっくりした事がある。 「……テッド?」 不思議そうなアスの声に、はっと我に返った。 (俺は今何を!?) 無意識に手を伸ばし、アスの頬にかかる髪を払おうとしていた。 もっとよく、その顔を見たくて。 「わ、わわっ」 慌てて全力で手を引いた勢いで、後ろにつんのめる。アスの手がテッドの腕を掴む前に逆にテッドに掴まれ、バランスを崩してそのまま二人とも倒れこんでしまった。(あなたたちレベル幾つよというツッコミは無しの方向で) 「…痛…っ…」 「悪いっ。大丈夫か?」 「ああ…」 そしてお約束。 テッドを庇ったアスが、テッドの下敷きになっていた。 (………っ) 間近で見るマリンブルーの瞳は、群島の海のように深く澄んでいる。 床に広がる、サラサラに見えて触ると割と柔らかい髪。 うっすらと開いた唇から覗く、白い歯。 「テッド?」 いつまでも退こうとしないテッドを、アスが不思議そうに仰ぎ見る。 それはスノウの前ほどではないけれど、今までの彼と比べるとやたらと無防備な視線で。 「…………」 マリンブルーとの距離が殆ど無くなろうとしたその時。 「聞いてくれ、アス!今日は訓練所で、とうとうラインホルトさんまでたどり着いたんだよっ」 ノックもなしにいきなり扉が開いたかと思うと、スノウが嬉しそうに飛び込んできた。 「……テッド?何してるんだい?」 「こ、これはっ。ちょっと転んでだなっ」 アスの上に覆いかぶさり、顔同士が今にも鼻が触れそうな距離にあるこの状態は、アス親衛隊の女の子たちなら怒声を、ちょっと腐った女の子たちなら歓声を上げさせるに充分だった。 「そうか。二人とも怪我はなかったかい?アス、立てる?」 二人に近寄り、スノウが横たわるアスに手を差し伸べる。衝撃の現場を目にした割にはいつもと変わらないスノウの態度に押された感じで、テッドは慌てて体を引いた。この状況で全く動じない彼を、大物と取るべきか鈍感と取るべきか。 「大丈夫。ありがとう、スノウ」 ふっと柔らかく微笑んで、アスがスノウの手を借りて体を起こした。 「テッドも大丈夫かい?」 「ああ…」 テッドにもアスと同様労わりの言葉をかけるスノウに、堪らない居心地の悪さを感じてふと顔を上げると、入り口にアルドが立っていた。どうやらスノウと一緒に来たらしい。 「お、俺部屋に戻るからっ!」 青くなったらいいものか、赤くなったらいいものか、混乱したテッドは俯いたまま怒鳴るように叫ぶと、アルドの脇をすり抜けようとした。 「テッドくん」 アルドの真横に来た時に、頭上から降ってきた自分の名。 続いてこつんと拳が後頭部を叩いた。 「ちゃんと後で二人に謝るんだよ」 「…………うん」 テッドの顔は、赤くなる事に決めたようだ。 スノウ108星入り前と後のアスの表情の違いを、テッドに説明してもらった話。4祭記念本で書きそびれたので。 全ストーリーが漫画で浮んだんですが、とても描いている気力がないので文で。漫画だとスノウがもうちょっと能天気で、テッドは普通に押し倒してたんですけどね(笑)小説と漫画だと微妙に性格が変わっちゃうのは、漫画はギャグ前提だからでしょうか。 テドヨンに見せかけた、スノ主とアルテドです。アスは誰に対しても自分からアクション起こすことがないので、必然的に受け。最後のアルドの頭コツン、思いついて超萌えました(笑)あの一瞬で全てが判っているアルド、勘良すぎ。 本編の流れには組み込まない話なのでSSSに。 |