「連れてはいけない……」
苦渋に満ちた声で、やっとそれだけ搾り出す。 シオンの目的は、テッドを死なせないことだった。 三百年の旅の果てにマクドール家に来て、シオンと友達になってくれたあのテッドを助ける為に、こうして再び過去をやり直している。 幼いテッドを連れて行けば、彼が孤独な旅をする事はない。 だがあのテッドは?シオンの無二の親友のテッドはどうなる? 無かった存在として消えていくのか? 子供っぽい笑顔の中に時折見せる大人びた寂しげな顔。大切な人を失い、傷ついてボロボロになっても、前を向いて歩き続けてきた強靭な意志。痛みを知った者でしか持ちえない、限りない優しさ。 シオンが救いたいのは、それらを抱えたテッドなのだ。 辛く長い生の終わりに、切ないまでに悲しい笑顔で逝った、あのテッドを救いたいのだ。 過去を変え、無かったことにすればいい訳ではない……。 これはエゴだ。今ここで未来を変えてやる方が、彼の為に良いことは充分承知している。 判っていてこの道を選択した。目の前の幼いテッドより、親友を選んだ。 「行っちゃうの?ぼくはどうすれば…ねえ、一生のお願いだよ。ぼくも連れて行ってよ」 必死に縋ってくるテッドをクレオが励ましている。シオンには何も言う事が出来なかった。 言う資格は無かった。 次頁 |