「ぐぇっ」
汚い悲鳴を上げて、皆の後ろに隠れていたカナンが倒れた。
「坊ちゃんっ、一体何を!!」
カナンの隣で棍を握り締めているシオンを見て、グレミオが悲鳴を上げる。軍人が上司に手を上げるなどあってはならないことなのだ。
「こいつに見られたらグレイズに報告され大変な事になるからね。……テッド、頼む」
「シオン……まさかお前、こいつの事知って……?」
テッドの視線にこくりと頷く。もう隠していることは出来ない。
「………皆さん、下がっててください」
テッドはくるりと身を翻すと、右手を掲げた。黒い闇の渦が、見る間にクイーンアントを飲み込んでいく。
やがて全てが消え去ると、テッドは皆のところへ戻ってきた。厳しい表情のまま、シオンに対峙する。
「ずっと…言おうと思ってて、でも言えなかった…」
テッドが片時も外したことのなかった右手の手袋を外した。
その右手に浮かび上がる不気味な紋章――ソウルイーターだ。
「これは真の紋章なんです。これの所為で俺は三百年間一人で生きてきた。……清風山から戻ったら、この町を出ようと思ってた。最後に皆を助けることが出来てよかったよ」
「テッド、僕も行く!」
「シオン…っ」
「坊ちゃん!?」
「僕も君と一緒に行くよ。君が追われていようが、不老だろうが関係ない。僕が一緒に行けば、一人じゃないだろう?」
「そんなこと……テオ様やグレミオさんが許す訳ないじゃないか」
一緒に、の言葉にテッドに動揺が走る。
「そうですよ。許しませんよ、坊ちゃん」
「グレミオが何を言っても無駄だよ。僕はテッドと共に行く」
「二人だけで行くのは許しません。でも誰か保護者が一緒なら構いませんよ。例えばこのグレミオとか」
「え……?」
思っても見なかった発言に、テッドだけでなくシオンの目も大きく見開いた。
「テオ様には武者修行と言っておけばいいでしょう。正直私はあのグレイズという人の下で坊ちゃんが働くことが、我慢ならなかったんです。旅に出てもっと強くなって戻ってきてから、テオ様の跡を継ぐでもいいと思いますよ」
「同意見だね。あの男見てると虫唾が走るよ。保護者は多いほうがいいよね。私も行くよ。あんたは?パーン」
「俺は…せっかく軍人になったのにそれを棒に振るのはどうかと思うが…」
「旅に出れぱ、軍以上に戦うことになるよ。モンスターとの戦いがね」
「それもそうかっ。よしっ、俺もお供しますよ!坊ちゃん、テッドくん」
どうやらパーンが行くのを渋ったのは、戦う場がなくなるのを恐れてらしい。根っからの戦闘好きである。
「そういう事ですので、これからもよろしくお願いしますよ。テッドくん」
「よろしくね、テッド!」
何だかんだで結局全員で旅に出ることが決まり、当然のように差し出された手に呆けていたテッドの顔がくしゃりと歪む。それから泣き笑いの顔になった。
「ありがとう……シオン、皆さん」


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