テッドの姿が門の向こうに消える。
その背が見えなくなるまで見送っていたシオンは、やがてくるりと踵を返すと、無言で屋敷に向かって歩き出した。 「坊ちゃんならともかく、テッドくんが呼ばれるなんて一体何の用なんでしょうかねぇ」 シオンのすぐ後ろを歩いているグレミオが、不思議そうに首を傾げる。 「清風山での働きの恩賞かなんかが出るんじゃないか?」 「あの金の亡者が恩賞なんてくれるものか。きっと紋章の事だよ。あんな紋章の力は私も初めて見た。…本当は隠しておきたかったんだろうに、私たちを助ける為とはいえ、彼には無理をさせてしまったね」 クレオの言葉が胸に突き刺さる。知っていたのに何も出来なかった。己の無力さが腹立たしい。 「何で隠すんだ?俺ならあんな凄い力、喜んで使うぞ」 「人には色々事情があるんだよ、パーン。みんなお前みたいに単純には出来ていないってことさ。……坊ちゃん?」 先頭を歩いていたシオンが、急に立ち止まって振り返った。 「ごめん。用を思い出した。先にみんなは帰ってくれないか」 「判りました。夕食までにはお戻りくださいね」 「ああ」 言うが早いか、シオンは元来た道に向かって走り出した。瞬く間に姿が見えなくなる。 「じゃ私たちは先に戻るとしようか」 「そうですね。…にしても坊ちゃんの御用とは何なんでしょう。あちらには城門しかありませんが」 「さあ。でもあんまり詮索しない方がいいよ。坊ちゃんだってもう一人前の軍人なんだからね」 「判ってますよ。だから何も訊かなかったでしょう。私だって色々考えているんです」 でも心配はしたっていいじゃないですか、と溜息を洩らし。 主を欠いた一行は再び屋敷に向けて歩き出した。 次頁 |