「うん。勿論守るよ」
「……サンキュ」 テッドの顔が泣きそうに歪む。テッドは暫く自分の右手を見つめていたが、やがて人前では決して取らなかった手袋を外した。 「火傷したなんて嘘なんだ。俺の右手には真の紋章の一つ、生と死を司る紋章…ソウルイーターが宿ってる。真の紋章持ちが不老になるってのは知ってるだろ?俺、こいつを宿してからちっとも背が伸びてないんだ。いつ皆に気づかれるかってずっとヒヤヒヤしてた……。でももう限界だ。毎日会ってるグレミオさんたちはあんまり気づいてないみたいだけど、町の人たちの中には俺が成長しないことを訝しんでる人もいる。……お前が仕官したら、この町を出て行くつもりだった」 「テッド……っ……」 やはり。当時ずっと心に抱いていた不安。いつかテッドは再び旅に出てしまうのではないか、それは自分が仕官した後ではないか…その予想は当っていた訳だ。 「でも黙って出て行くのは辛かった。お前には…お前にだけはちゃんと全部話したかったんだ」 強く紋章を握り締める左手を、右手ごとふんわりと両手で包み込む。 「ありがとう、テッド。秘密を打ち明けてくれて……凄く嬉しい」 「シオン……」 「成長しないことなら気にしなくていい。グレミオたちなら、話せば判ってくれる。町で暮らしにくいなら旅に出よう。一箇所に住み着くのでなければ問題ないだろう?」 「……ってまさかお前、一緒に来るつもりなのか?」 「当然だよ。僕はもうテッドと離れるつもりはないからね」 「もう?」 シオンの言葉尻を捉え、テッドが訝しげに眉を寄せる。 「いや、なんでもない。いいだろう?テッド」 「やめとけよ。根無し草な生活なんて良いことないぞ。折角帝国軍に入れたのに勿体無いじゃないか。それにテオ様やグレミオさんが許す訳ないだろ」 「父さんたちは関係ない。僕の人生は僕が決める。テッドが駄目だって言ったって付いていくからね」 テッドが出て行くと言った瞬間、シオンは決意していた。 テッドを止めることはできないだろう。ならば共に行けばいい。彼を引き止めるのではなく、自分が彼の世界に飛び込めばいいのだ。 前はマクドール家の嫡男という意識が、その可能性を考えることを拒んでいた。だが齢を重ね、家に縛られるだけが全てではないと知った今なら、躊躇いなく彼と共に行く道を選べる。 「……親不孝者」 テッドの声が段々小さくなり、俯いていく。その頬に光る物をみつけ、シオンは励ますように握っている手に力を込めた。 「僕はずっと君と一緒だよ」 次頁 |