マクドール家のシオンの部屋は、主が初任務でロックランドに行った日のままになっている。
枕の上には一冊の暗赤色の古びた本。それはシオンがグレッグミンスター城の書庫でみつけたあの本だった。
突然、窓も開いていないのにぱらぱらと本がめくれ始める。
書庫でシオンが開いた時には最初の一ページにしかなかった文字が、いつ間にか最終ページまでびっちりと書き込まれていた。
最後までめくり終わると、本はまたひとりでにパタンと閉じた。
その直後、グレミオがシオンの部屋を片付けに入って来た。
ベッドの上の本に気づいて、何気なく表紙を開く。そして首をひねった。
「不思議な本ですねぇ…タイトルも中身も何も書いていない」
グレミオはとりあえずその本を机の上に乗せると、剥がしたシーツを抱えて出て行った。
彼が洗濯を終えて持って戻ってきた時には、本はもうどこにも無かった。