VIP扱いのシオンとテッドは、本拠地において、軍主たちに次ぐ広い部屋を与えられている。 その部屋で、今シオンと向かい合って座っているのは、同居人のテッドではなく軍主のコウリだ。 「全く…これじゃ一人部屋にいるのと変わらないよ」 高価なワインを手酌でグラスに注ぎ、ビールでも飲むかのようにハイペースで空にして行く。 あれではワインの味を楽しめない。ワイン好きのシオンとは思えない飲み方だ。 コウリも相伴に預かっているが、こちらは普通に少しずつ口に含んでいる。コウリはワインはあまり得意ではないので、自然ちびちび飲みになっているだけなのだが。 「テッドさんはお出かけですか?」 「ああ、相変わらずね(トゲトゲ)」 生来の人好きが顔を出し、本拠地にもあっという間に馴染んだテッドは、この部屋に居た試しが殆どない。 ハイ・ヨーの所で給仕を手伝ってたり、ユズと一緒に家畜の世話をしてたり、ヨシノとにこやかに洗濯物を干してたり、ヤム・クーのとこで釣りをしてたり、トニーともぐら退治をしていたり…とにかく本拠地の設備のあらゆる所に顔を出しているらしい。 「薬草と応急処置の知識が豊富なので、ホウアン先生が助手に欲しいって言ってました。この前はアンネリーと舞台で見事なデュオを披露してくれたし。テッドさんって昔、聖歌隊に入ってたことがあるんですってね。誰からも好かれるし、優しいし、強いし、凄い人ですね」 「そこなんだよ」 目の据わったシオンがずずいと身を乗り出す。 「あのお節介、頼まれない事まで率先して手伝ってるんだ。お陰で同じ部屋で生活してるのに、殆ど顔を合わせてない。夜は酒場で酔っ払いどもと騒いでるし。酒ならここでだって飲めるのに」 どうやらテッドがいなくて拗ねているらしい。 不機嫌の原因が自分に関する事じゃないと判って、コウリは内心ほっと胸を撫で下ろした。シオンを怒らせると怖いのだ。 「じゃあシオンさんも一緒に酒場に行ったら」 「酒は静かに飲むものだ。あんな大騒ぎはしたくない」 「はぁ…」 コウリはドンチャン騒ぎ大好き派なので、逆に今の方が居心地悪い。酒もワインよりは清酒や焼酎の方が好きだ。この辺テッドと趣味が合う。 こういう静かな飲み方は、きっとジョウイの方がいいんだろうなと思う。ジョウイは酒場の雰囲気は嫌いではないみたいだが、一緒になって騒ぐという事はしない。いつも隅っこで楽しそうに皆を眺めている。 「あー、僕も似たようなものです。ジョウイはいつも仕事仕事で、部屋には寝に帰ってくるだけなんですよ。僕にも仕事を回せって言ってるんですけど、雑務は僕に任せて君は仲間集めを頑張れって」 「………たまにはあいつらを本拠地から引き離さないか?」 「パーティに入れるって事ですか?」 「ああ。一週間位の遠征にしよう。アイテム探しでも仲間集めでも何でもいい」 「そうですね…」 いつもは仲間たちのレベル上げも兼ねているので、レベルの高いシオンたちを二人以上同時に入れることは滅多にない。四人一緒は、バナーの村から本拠地に来た時以来だ。 「だったらナナミも連れて行かないと怒られますね」 私だけのけ者にしてーっと、騒ぐ姉の姿が目に見えるようだ。 「一週間位っていうとティント辺りかな。丁度呪いの人形が欲しかったんだっけ」 「決まりだな」 互いに顔を見合わせて、ニヤリと笑う。二人の利害は一致した。 「じゃ明後日にでも出発しましょう。僕の方からテッドさんに依頼を出しておきます」 「任せたよ」 シオンが手にしたワインをゆっくりと喉に流し込む。気分は回復したようだ。 「そういえば一度訊きたかったんだけど、レックナート様は君の歴史にも巻き込まれたのかな?」 「ええ。輝く盾の紋章を宿した時、僕が一人になったのを見計らって教えてくれました。シオンさんもなんですね」 巻き戻された過去の記憶を持てるのは、本を開いた者の他には、運命の番人であるレックナートだけだ。 「世界の何処かであの本が開かれる度、僕らは知らないうちに少しずつ違う歴史を繰り返している訳だ。レックナート様はその全ての運命を見ているんだな…」 「あ、だから未来を知ってるのかも。はっきりした運命が判らないっていうのは、本を開いた者によって運命が変わるからで…」 「そういうわけではありませんよ」 「……!!」 突如部屋に現れた青い光と、柔らかな女性の声。 光の中から現れたのは、見知った不法侵入の常習者である。
「レックナート様っ、いきなり部屋に現れるのは止めて下さいっ」 |