「判った、安心しろテッド」
結局シオンは同じ道を選んだ。
テッドが死に一歩近づく事を知っていて尚。
いや未来を知ってるからこその選択。
自分が彼の立場だったらどちらを望むか――そう考えたら答えは明らかだった。
人には死より辛い苦しみがある。己の存在意義を失うことは、命を失うこと以上の苦痛。
「す、すまない…シオン……」
テッドの顔に安堵の色が浮かぶ。
だがその瞳の奥に滲んだ微かな絶望が、シオンの胸を強く締め付けた。
誰も、友達を不幸になんてしたくなんてない、のに。
「この紋章は……お前に…不幸を…もたらすかもしれない…。その時は俺を…恨んでくれていい。でも…ウィンディにだけは…そ…それを…渡さないでくれ」
「恨む訳ないだろ。君が僕を信じて預けてくれたこの紋章は、僕の命に代えても守ってみせる」
「シオン…………………右手を」
目を伏せたテッドが、震えながら伸ばした右手を取る。熱のあるテッドの手のひらは、熱く湿っていた。重ならない右手同士を合わせ、テッドが小声で紋章を起こす言霊を唱える。
詠唱に応えた紋章が、テッドの手を離れシオンへと渡っていく。
「――――……」
二度目の継承。再びシオンの時は流れを止めた。

ドンドンドンっ

継承を終えた直後、玄関を激しく叩く音が鳴り響いた。
どうやら兵士たちはマクドール家に来る前に、先にテッドの家に行っていたらしい。荒々しく怒鳴る声。ドアを叩く音。
「構わん、戸をこじ開けろ」の声に身構えたシオンを制して、テッドがベッドから起き上がった。
「俺が囮になる……その間に……逃げてくれ…」
「そんな事できるか!もう二度とあんな思いはしたくない。僕は今度こそ、君を守るって決めたんだ!」
「今度こそ……?」
不審気なテッドを無理矢理ベッドに横たえ、シオンは落ち着いた足取りで玄関に向かった。
口では守ると言ったものの、今のシオンの戦闘能力ではテッドを庇いながら兵士たちを相手に戦うのは無謀だった。
だがシオンは未来を知っている。それを上手く利用すれば何とかなるかもしれない。
ドアの前で深呼吸する。ドアノブに手をかける。
扉の向こうには、雨に濡れた男たちが立っていた。


「何の用ですか」
「乱暴に叩くな。壊れるじゃないか」