「いいよ。テッドの部屋に行こう」
二人はテッドの部屋までやってきた。
シオンの部屋の真下にあるこの部屋は、テッドが屋敷に泊まる時に使用している。どうせならここに住めと何度も言っているのだが、一人暮らしの方が気楽だからと、屋敷に住むことを頑なに拒み続けているテッドである。
今なら紋章を見られる事を恐れてだという事が判るのだが、当時は距離を置かれているようで寂しかった。
「あー今日は散々な日だった。あのガキども、今度会ったら覚えてろよっ」 
部屋に入るなり、テッドがベットに大きく大の字に寝転がる。シオンもその脇に軽く腰を下ろした。
「テッドが先に挑発したんじゃないか。自業自得だよ」
「だってよ、俺は本物の竜騎士に会えると思ってたんだよ。それが唯の見習いだろ?ガックリ来ちまってさ」
やっぱあいつが来る訳ないかという呟きを聞きつけ、シオンが首を傾げた。
「テッド、竜騎士に知り合いがいるの?」
「ん?ああ、ちょっとした縁でさ。お偉いさんだから、こんなとこまで来る訳ないって判ってたんだけどな」
お偉いさん、という言葉にひっかかった。竜騎士で高位の立場にいる人間。そしてテッドが知り合えたであろう人物。それは。
「もしかして…ヨシュア竜騎士団長?」
「あ、名前知ってたか?そうだよな。有名だもんなー」 
有名だからではない。実際に一緒に戦った相手だから知っているのだ。
頭の回転の速い、切れる男。彼もまたその身に宿す真の紋章の為、見た目どおりの年ではなくなっている。
竜騎士団長は、有事の時以外は竜洞から出ることはない。一般人が騎士団長と知り合いになれるとしたら、騎士時代までだ。
ヨシュアの騎士時代は200年近く前になる。そんな昔の知り合いに会いたがるという事は、ヨシュアはテッドが真の紋章持ちだと知っている事になる。
「凄い人と知り合いなんだね。どこで知り合ったの?」
知られた後も付き合いを続けるほどヨシュアと親しかったのかと、声に若干の嫉妬が混じってしまい苦笑いする。
「旅の途中で世話になったんだ。どこだったかは忘れたな」
幸いテッドは気がつかなかったようだ。話の合間にふわああと大きな欠伸をする。
「やっぱそろそろ寝ようぜ。疲れちまった」
「寝るんならちゃんと着替えなよ。皺になるよ」
もぞもぞと寝具の中に潜り込もうとするテッドの服を、引っ張って止める。
「いいよ別に」
「良くない。ベッドも汚れるだろ」
「お坊ちゃんめ」
ぶつくさ良いながら、テッドが体を起こした。上着を脱ぎ、ベッドの上に放り出してあった夜着に着替えながら振り返る。
「お前はどうするんだ?部屋に帰らないのか?」
「僕は……」
鈴の音が、シオンの頭の中で鳴り響いた。


「部屋に帰るよ」
「このまま一緒に寝てもいい?」